1981年に発表されたタモリの三作目のアルバムです。1981年のタモリは「今夜は最高」が始まって、密室芸人から音楽を始めとするさまざまな分野で異能を発揮するタレントとしての地位を築き始めた時期です。そこからは一気にファンの層は拡大していきます。

 極め付きは「笑っていいとも」の開始で、それは1982年、さらにその翌年には紅白歌合戦の総合司会を務めるという世間の認知ぶりです。もはやたけしやさんまと「お笑いBIG3」と呼ばれることに違和感しか感じなくなってきたものです。

 本作品はちょうど端境期にあたる時期の制作です。前2作がコント中心のアルバムだったのに対し、本作品はお笑い要素はあるものの、しっかりとした音楽中心のアルバムです。ハードボイルドなジャケットは前2作とは様変わりです。

 ただし、その間に全編これ歌謡曲のパロディーからなる幻の三枚目があったことは忘れられません。発禁処分となりましたが、結構普通に流通していたので、私も愛聴していました。面白タモリの集大成的な面白い作品でした。♪だいたい来週デイト、阿佐ヶ谷で♪。

 本作品は全9曲から構成されています。曲間には「ディテクティヴ・ストーリー」と題する一人がたりの寸劇が置かれています。スネークマン・ショウのような形ですが、ご丁寧にスネークマンのパロディーも入っていて、さすがに芸が細かいです。

 楽曲は3種類に分けられます。一つは「今夜は最高」でもハウス・バンドとなっていた「和製ウェザー・リポート」ことザ・プレイヤーズとの曲、もう一つは、本作品を引っ提げたツアーにも同行したザ・スクエアとの曲、三つめは桑田佳祐が提供した曲です。

 ザ・プレイヤーズはピアノの鈴木宏昌のリーダー・バンドで名うての凄腕ミュージシャンが揃っています。彼らは桑田が提供した「狂い咲きフライデイ・ナイト」と「スタンダード・ウィスキー・ボンボン」でもバックを務めています。

 ザ・スクエアはドラムが青山純から永田敬一に代わったばかりの頃で、彼らの歴史の中でもメンバー交代が頻繁にあった過渡期にありました。そういう意味ではスクエア・ファンにとっても重要なアルバムだそうです。大穴アルバムですね。

 演奏はいずれも一級品です。おふざけ要素は一切ありません。タモリの歌詞は、ラテン風日本語や、馴染み深いフレーズが並べられる英語詞など面白要素は満載なのですが、いずれも音楽に対するリスペクトに満ちており、楽曲の完成度に大きく貢献しています。

 演奏は力が入っており、ザ・プレイヤーズもザ・スクエアも素晴らしい演奏を繰り広げています。一生懸命に遊ぶというコンセプトが流行り始めた頃だったことを思い出します。曲調はラテンからテクノ、ジャズからポップスとばらばらですが、いずれもタイトな演奏が素晴らしいです。

 なお、シングルのみで発表された「タモリのワークソング」と「久美ちゃんLOVE」もボートラで収録されています。前者はナット・アダレイ、後者はスタン・ゲッツの曲のカバーです。ジャズ・ファンのタモリの本領発揮ですね。プロっぽくないタモリのボーカルがよく合います。

Radical Hystery Tour / Tamori (1981 CBSソニー)