トリプルエッジはもともとドラムの藤掛正隆とベースの早川岳晴によるユニット「エッジ」にキーボードの坪口昌恭が加わってできたユニットです。ここに「即興の巨人」坂田明が加わったのが坂田明×トリプルエッジの四人組です。

 本作品はこの四人組による初めてのアルバムで、標題はユニット名のセルフ・タイトルとなっています。2017年8月19日に東京は阿佐ヶ谷のイエロー・ヴィジョンでライヴ録音されています。ここでは全部で50分と1秒の一大即興絵巻が繰り広げられます。

 アルバムの発表は藤掛のレーベル、フルデザイン・レコードからです。このレーベルはコンテンポラリーな音楽家たちによる良質のアルバムを発表し続けており、どの作品をとっても失望させられることなどありません。アヴァン・ミュージックの良心ともいえるでしょう。

 本作品はリハーサルや打合せなど一切なくて、四人による完全即興で制作されています。10分前後の曲が5曲と、演奏には句読点が打たれていますけれども、それぞれが完全な即興からなっているというのです。ちょっと驚きです。

 というのも、それぞれの曲が結構きちんとまとまっているからです。考えてみると即興だからといって曲に構造があってもいいわけで、リズムやメロディーがたち現われてきてもおかしくはありません。即興と作曲のあわいはなかなかに難しいものです。

 最初の曲は「トリプルエッジド」と題されています。まずは名刺代わりの一発らしく、静かな立ち上がりからぐいぐいと4人が絡んでいくさまはこれから始まる演奏をサマライズしたような充実ぶりです。藤掛のぐいぐい押していくドラムが光ります。

 続く曲「S.A.C」と「S.A.V」は分かりやすいタイトルです。坂田明、SAがクラリネット、Cを吹くのが前者、ボーカル・パフォーマンスをするのが後者です。坂田の芸達者ぶりがとんでもなく楽しい2曲です。ボーカルはハナモゲラ語ですね。

 アルバムはさらに「ミフネ・コート」へと進んでいきます。タイトルの意味するところは分かりませんけれども、恐らくはジャケット写真がミフネのコートなのではないでしょうか。ちなみにジャケットをひっくり返すと竹林の写真です。そっちはまるで謎です。

 最後の曲は坂田がしばしば演奏する宮城県の民謡「斎太郎節」のイエロー・ヴィジョン・バージョンです。一二を争う有名な民謡ですけれども、そのエネルギーはそのままに見事な即興演奏で盛り立てていきます。坂田のボーカルも冴えています。♪えんやとっと♪!

 このカルテットの演奏は藤掛のどんどこ煽る力強いドラムによってプログレッシブ・ロック的な爽快感が漲っているのが私はとても好きです。忍者のようなと形容される早川のベースとの相性は抜群で、「坂田を中心とする脳天直撃型」のサウンドを支えています。

 ブックレットを開くと、実に嬉しそうな顔をしている坂田明の姿が写っています。日本の即興音楽を牽引してきた坂田はこの年72歳。その大御所がまるで高校生のような笑顔を浮かべています。この笑顔が本作品のサウンドを物語っています。実に楽しいアルバムです。

Sakata Akira x Triple Edge / Sakata Akira x Triple Edge (2019 Fulldesign)

映像は見当たらず。残念。