アンノウン・モータル・オーケストラとは何とも不思議な名前をつけたものです。オーケストラとはいえ、本作品の時点では3人組です。中心はギターのルーバン・ニールソンで、加えてドラムに弟のコディー・ニールソン、ベースにジェイコブ・ポートレイトの編成です。

 出身はニュージーランドでデビューは2011年、その後順調に活動を続け、世界各地で高い評価を受けています。ここ日本でも何回か大盛況のうちに公演を終えています。レーベル・サイドは「サイケデリック・ロック・バンド」と紹介しています。

 本作品は彼らとしては初めてのインストゥルメンタル・アルバムで、通算すると5枚目になります。タイトルは「IC-01ハノイ」です。前半は謎ですが、後半はベトナムの首都、あのハノイのことです。ハノイで録音したので「ハノイ」です。

 アンノウン・モータル・オーケストラは2018年4月にアルバム「セックス&フード」を発表しています。この作品は世界各地で録音されており、その一部はハノイで行われました。本作品は基本的にその時のセッションを構成したものだということです。

 ハノイで行ったセッションらしく、地元のミュージシャン、ミン・グエンがフィーチャーされています。グエンは口琴に近いダン・モイ、横笛サオ・モン、打楽器トロン・タンというベトナムの伝統楽器をプレイしています。グエンの詳細は不明です。よくある名前なんですよね。

 もう一人のゲストはツアーには参加しているというニールソン兄弟の父クリスです。トリオはギター、ベース、ドラムに特化しており、クリスがサックス、フリューゲルホーン、キーボードをプレイしてグエンとともにサウンドに彩りを添える、そんな構成です。

 本作品のサウンドは、「バンドのジャズ、クラウト・ロック、アヴァンギャルドの影響を音楽的に蒸留したもの」だと形容されています。バンドのニュースを書いたクリント・ワージントンはここにマイルス・デイヴィスの実験的な作品の影響を見てとっています。

 マイルス・デイヴィス。そうですね。この名前でいろいろと合点がいきました。どことなく馴染みがあるサウンドだなと思ったのはそこでしたか。トランペットは使われていませんけれども、鉄骨でできているかのようなファンクっぽいリズム・サウンドはマイルスっぽいです。

 マイルスの影響下にあったマハヴィシュヌ・オーケストラなんかも想起されます。もう少し時代を寄せていうと、アメリカのジャム・バンドを思い浮かべるとそう遠くないと思います。ここにはハウスやテクノを経たリズムが横溢しています。

 曲名はすべて「ハノイ」で、識別のために番号が付されています。このうち、最初にシングルとされたのは「ハノイ6」です。アルバムは30分に満たない長さなのに、この「ハノイ6」は9分強で、アルバムで一番長い曲になっています。

 「ハノイ6」は5人のアンサンブルが素晴らしい曲で、アルバム全7曲のエッセンスが詰まっています。クラウト・ロックっぽくはありませんが、アヴァンギャルドな精神は充満しており、ジャケットの気だるい感じとは裏腹にぴきぴきした気持ちのいいサウンドです。

参照:"Unknown Mortal Orchestra announce new album" Clint Worthington (Consequence Sound )

IC-01 Hanoi / Unknown Mortal Orchestra (2018 Jagjaguwar)