ジェイムズ・ブレイクが前作から約2年半ぶりに発表したアルバムは「フレンズ・ザット・ブレイク・ユア・ハート」と題されました。コロナ禍の真っただ中での制作です。もともと宅録の人ですから、コロナ禍はデビュー当時にジェイムズを連れ戻したといえないこともありません。

 前作では、しっかりと自分の姿をジャケットに刻印していましたけれども、本作品ではアーティストのマイルス・ジョンストンと創り上げたという切り刻まれた自身の姿をもってきました。そのままの姿でないところが初期の作品群を思わせます。

 タイトルも「私の心を砕いた友だち」と剣呑です。「葬式」なんていう曲もあり、その中では♪自分の葬式なのにまだ生きている感じ♪といった恐ろしいイメージを描いています。他にも「人生は同じじゃない」とか、直截な曲名が多いですし。

 しかし、救いのない暗さというわけではありません。ジェイムズの定評あるバリトン・ボイスによって丁寧に歌い上げられていく様は慈愛を感じさせて感動的です。人間にはどうしようもなくつきまとう心の闇を静かに包み込んでいきます。

 アルバムには、人気R&B歌手のSZA、ヒップホップのスーパーグループ、ゾインク・ギャングの一員でもあるJID、若い実力派ラッパー、スワヴェイ、そしてウィスコンシンのオルタナ・フォーク・バンド、PHOXのモニカ・マーティンがフィーチャリングされています。

 幅の広さもジェイムズならではです。こうしたゲストを見事にジェイムズの世界に引き込んで、なおかつそれぞれの個性を引き出すという理想的なコラボレーションが成立しているように思います。がっちりとアルバムのコンセプトが固まっているということでしょう。

 トラックを作り出すパートナーはいつもの盟友ドミニク・メイカーに、恋の相手でもあるジャメーラ・ジャミル、前作に引き続いて売れっ子のメトロ・ブーミンなどが起用されています。中では気になるのが大阪生まれのジョージでしょうか。

 さらにタイトル曲では作曲とプロデュースにリック・ノウルズが起用されました。彼はマドンナやデュア・リパ、スティーヴィー・ニックス、ラナ・デル・レイなどと仕事をする現代のヒットメーカーです。ジェイムズも思えば遠くに来たものです。

 そういえばジェイムズはもはやグラミー賞の常連となっており、オルタナ部門でのノミネートが多いものの、もはやメインストリームのど真ん中です。ミニマルなリズムによるトラックももはやメインストリーム、それでシンガー・ソングライターなのですから賞も当然です。

 先行シングルとして発表された「セイ・ホワット・ユー・ウィル」は「他の人がどれだけうまくいっているように見えても、自分自身と自分の置かれている状況に平和を見出すこと」がテーマだとされています。これまた王道の主張です。

 コロナ禍で時計は逆戻りしたわけではけしてありません。ジェイムズは一回りも二回りも大きくなり、人間を、そして世界をひろく包み込む包容力を身につけたようです。音楽の力は偉大です。ジェイムズは見事にコロナ禍を乗り切り、傑作をものしたのでした。

Friends That Break Your Heart / James Blake (2021 Republic)