「全世界で400万枚以上オアルバム・セールスを記録し、ワールドワイドに活躍するフレンチ・フィーメイル・シンガーZAZ、約3年ぶり5枚目となる新作アルバム」と紹介されるのは現代のフランスを代表する歌手ザーズの新作「イザ」です。

 日本語の語感からするとちょっと変なタイトルですけれども、これはザーズの本名であるイザベル・ジュフロアに由来するそうです。ザーズはソロ・デビューする前に参加していたミクスチャー・ロック・バンド、ドン・ディエゴにいた頃に付けたステージ・ネームなのでした。

 その彼女が一部を切り取ったとはいえ、本名をタイトルに持ってきたわけですから、このアルバムがこれまで以上にパーソナルなものであることがうかがえます。多くのアーティスト同様に、これにはコロナ禍が大きな影響を与えています。

 ザーズにとってもコロナ禍でのロックダウンは大変なショックでした。「私はもっと穏やかでいる必要があったの、もうほとんど何もしないぐらいの、この10年間で私がやってきたこととはまるで違ったわ」。精力的な活動を続けてきたアーティストには厳しかったことでしょう。

 2020年春にアルバム制作を思い立ったと言いますから、コロナ禍はまだ始まったばかりの頃です。さすがに感度が鋭いです。その時点でここまでになるとは誰が想像したことでしょう。それも関係あるのか共演するミュージシャンもがらりと変わっています。

 今回、中心となったパートナーはオランダ出身のピアニストにして映画音楽のコンポーザーでもあるREYNです。彼はビデオ・ゲームの音楽を作っていたことでも知られています。REYNは本作品ではプロデューサーとして、サウンド作りに大きな貢献をしています。

 収録された楽曲のコンポーザーはバルセラなど、あまり馴染みのない名前が並んでいます。その多くは若手シンガー・ソングライターだそうで、そうした新鮮なアーティストの曲をREYNのアレンジで見事に料理しており、実に統一感のあるアルバムになっています。

 アルバムに先行して発表されたシングル曲のタイトルは「イマジン」です。誰もが知るジョン・レノンの名曲と同じタイトルについて、ザーズは「とっても希望に満ちたタイトルにしたかったの。人生をどう生きるか、ってことを歌っている」と語っています。本家に負けていません。

 世界中を旅して制作した前作とは少し異なり、オランダのREYNのスタジオやフランスの自宅で制作されただけに、より王道のシャンソンっぽいというか、落ち着いたヨーロッパを感じる作品になっています。オーケストラの使い方も絶妙なので余計にそう感じます。

 異色なのはドイツの過激派ロック・バンド、ラムシュタインのティル・リンデマンの参加です。彼は「涙の庭」という曲でザーズとデュエットを披露しています。セルジュ・ゲンズブールを思わせるとてもシャンソンな曲になっています。かっこいいです。

 ザーズの歌声は相変わらず素晴らしいです。内省的でありながら、世界の行く末を考え抜いた力強さが歌声に溢れています。REYNとのコラボレーションは大成功だといえましょう。最高のパートナーとともに制作したアルバムはまたまた傑作になりました。

Isa / Zaz (2021 Parlophone)