リジー・メルシエ・デクルーのセカンド・アルバム「マンボ・ナッソー」にはジャケットが何種類かあります。ご紹介するものはフランスのフィリップスから発表されたオリジナルLPのジャケットで、写っているのは何かのオブジェではなく、大写しされたウニです。

 ウニを食べるのは日本だけではなく、南フランスでも普通に食べられているようです。リジーはパリ生まれですけれども、育ったのは海から遠いとはいえ南東フランスのリオンですから、ウニは親しい食材だったのではないかと思われます。

 リジーはZEレコードの創設者の一人、Eの方のミシェル・エステバンとともにニューヨークに渡り、ZEレコードからソロ・デビューを果たした人です。彼女の横顔を大写しにしたアート感覚あふれるジャケットのソロ作品は商業的にはさほど成功したとはいえません。

 しかし、彼女のサウンドに魅力を感じたアイランド・レコードのクリス・ブラックウェル社長は彼女のレコーディングにお金を出すこととしました。タニマチですね。本作品はこうしてクリスのバックアップを得て、バハマのナッソーで1980年に制作されたセカンド・アルバムです。

 アイランド・レコードでナッソーといえばコンパス・ポイント・スタジオです。プロデューサーには、このスタジオにゆかりの深いミュージシャンでトム・トム・クラブにも所属していたジャマイカン、スティーヴ・スタンレーが起用されました。

 さらにコンパス・ポイント・オールスターズからシンセサイザーのウォリー・バダルーやドラムのビル・ペリーが参加しています。ベースやギターはフランス人ミュージシャンのようですが、サウンドはとてもコンパス・ポイントらしいものに仕上がっています。

 本作品は「アヴァン・ロックとワールドビート両方のパイオニア的存在だった奇才フランス人アーティスト」による「アート・ロックとアフリカ音楽、そしてファンク&ソウルが入り混じった作品」と紹介されています。エステバンによれば「最初の混血レコード」です。

 コンパス・ポイントらしいむき出しのビートですが、ここではカリブを向いているのではなく、アフリカを向いています。しかし、どこのアフリカかと突き詰めると、アフリカっぽいですけれどもどうもアフリカでもないような気がします。アヴァン・ロックと呼ばれる所以です。

 さらにいえば、そもそも音楽っぽくありません。もちろん音楽ではあるのですが、ミュージシャンの生み出すサウンドっぽくないんです。リジーは多くのポストパンク期のアーティスト同様にアートスクールの出身のノン・ミュージシャンであろうと思います。ノー・ウェイブですね。

 ぱっつんぱっつんのむき出しビートにこれまたむき出しのギターが絡み、リジーのまるでお祭りの掛け声のようなボーカルが跳ね回っています。これは楽しいです。テクノなどのエレクトロニクス音楽が本格化する直前のサウンドです。

 ボートラには南アフリカ行きをアピールするためにリジーが録音した南アフリカのサウンドを取り入れった曲が収録されています。軽やかで大変結構なことだと思います。まだワールド・ミュージックという言葉が人口に膾炙する前の話でした。

Mambo Nassau / Lizzy Mercier Descloux (1981 ZE)