ラヴ・アンド・ロケッツの3人は、バウハウスその後、といった捉えられ方をされ、ベテランがカムバックしたかのような扱いをされがちです。しかし、バウハウスのデビューから本作でまだ7年、3人ともまだ20代だったはず、まだまだ若いバンドなんです。

 本作品はラヴ・アンド・ロケッツのセカンド・アルバムです。タイトルは「エクスプレス」、ジャケットはいかにも名前の由来となったアメコミ風のデザインです。黒と赤を際立たせたロシア構成主義的なデザインでもあります。アートタイプのアメコミでしょうか。

 好評だったデビュー作から約1年、バンドは自分たちの進むべき道に自信を深めたようで、ダニエル・アッシュとデヴィッド・Jのボーカルも前作にまして堂々としています。よりポップに傾いてきており、アメリカンな雰囲気が漂うオルタナ・ロックが展開しています。

 このアルバムのメンバーのクレジットを見ると、前作ではドラムのケヴィン・ハスキンスも含めて3人とも主担当の他にキーボードを使っていると表記されていましたけれども、本作ではlきれいさっぱり消えています。ただ、アッシュにはサックスが追加されています。

 キーボードが全く使われていないわけではなくて、プロデュースに当たっているジョン・リヴァースにアディショナル・キーボードと記載されています。アッシュのギターの音が多彩なので、キーボードとの区別がつきにくいですが、いずれにせよ追加的な使用のようです。

 ジョン・リヴァースはデビュー作のプロデュースも担当していました。リヴァースはスペシャルズやその派生バンド、ファン・ボーイ・スリーなどの明るいレゲエ風サウンドも担当していますが、本領はデッド・カン・ダンスやオーシャン・カラー・シーンなどで発揮されています。

 要するにリヴァースはラヴ・アンド・ロケッツのサウンドのようなギターを何層にも重ねていくようなサウンドが得意な人です。まさに両者の相性はぴったりで、本作品で聴かれるギターによるウォール・オブ・サウンドを創り上げるに理想的なコンビでした。

 ギターといえば、7曲目の「オール・イン・マインド」にはアコースティックと括弧書きが付されており、アコギがメインに使用されています。この曲の前後の曲もアコギが活躍しており、何ならアルバムの後半はアコギが中心だといえます。

 ダニエル・アッシュのノイジーにかき鳴らす個性的なギター・スタイルからするとやや驚きではあるのですが、これはこれで彼の繰り出す多彩なギター・サウンドの一つとして大変に魅力的です。とにかく全編にわたって彼のギターが八面六臂の大活躍をしていますから。

 本作品の収録曲で最も有名なのは「クンダリーニ・エクスプレス」です。クンダリーニは別名シャクティ、体内に存在する根源的なエネルギーのことです。他にも「陰と陽」なんていう曲名もありますから、東洋思想に影響されていて、サイケデリックなムードが漂います。

 前作に比べると少しだけサウンドがくっきりしてきました。その分、各楽曲がそれぞれに個性を主張していて素晴らしく、リピートすればするほど味わいが深くなっていきます。彼らのサウンドはこの後ロック界の主流になっていきます。名前はオルタナ・ロックですが。

Express / Love And Rockets (1986 Beggars Banquet)