1980年代に入ってもサン・ラーは快調です。1914年生まれですから、本作品が収録された1980年2月には65歳、まだまだサン・ラーの勢いは衰えていません。そもそも土星からやってきた人ですから、年齢など関係ないのかもしれませんが。

 この作品は1980年にサン・ラーが3か月に及ぶ欧州ツアーを行った際に収録されたライヴ・アルバムです。場所はスイスのヴィリソウ、政府観光局によれば、「中世からの街並が残るかわいい街」です。そんな中世の街にサン・ラーは降り立ちました。

 収録された2月24日はヨーロッパ・ツアーの最初の日にあたります。当日は2回のショーが行われ、その両方からの演奏が本作品に編集されています。最初の日という事実には意味があります。というのもメンバーが全部そろっていないんです。

 このライヴのステージでのアーケストラはサン・ラーを含めて9人組です。目につくのはベースとトロンボーンの不在です。トランペットも一人だけです。サン・ラーはピアノ、ドラムが二人、サックス勢が5人という一風変わった編成になっています。

 ベースの不在はサン・ラーのピアノが穴埋めをしているようで、いつにもましてサン・ラーはピアノを弾きっぱなしです。そして、マーシャル・アレンとジョン・ギルモアというサックスの両巨頭の活躍もいつも以上に目立つような気がいたします。

 そうした編成の妙味もさることながら、本作品の最大の特徴は昔のジャズのスタンダード曲が数多く収録されていることです。選ばれている曲は、「二人でお茶を」、「ラウンド・ミッドナイト」、「レディー・バード」、「A列車で行こう」など誰もが知る名曲です。

 CDに収録されている15曲のうち、オリジナルはわずかに5曲ですから、いかにスタンダードが多いかが分かります。しかし、これには編者の意向もあります。オリジナルはLP2枚組でCDに以降する際にスペース・オペラ曲が2曲15分もカットされてしまっているんです。

 編者のウェルナー・ウエリンガーは「アーケストラが古い曲を演奏しているのをもっと人々に聴いてほしかったんだ」と白状しています。この当時はサン・ラーのそうした演奏はレコードにはなっていなかったのだということです。

 狙いはあやまたず、「サンライズ・イン・ディファレント・ダイメンジョン」と名付けられたアルバムは見事なスタンダード・アルバムとなっています。とにかくサウンドが美しいです。皮肉で言っているのではありません。額面通りの意味で美しいです。

 サン・ラーはデューク・エリントンやフレッチャー・ヘンダーソンなどの音楽の美を愛でていた人です。その美しさを1980年にこれほど見事に表現していたバンドは他にないのではないでしょうか。エキセントリックな人だと思っていると驚くと思いますよ。

 オリジナル曲ももちろん魅力的です。アレンのオーボエやギルモアのクラリネットなども活躍しますし、何といっても硬軟強弱とりまぜたサン・ラーの宇宙からなっているようなピアノが凄い。サン・ラーのジャズの魅力が全開です。本当にいいライブです。

Sunrise in Different Dimensions / Sun Ra Arkestra (1981 Hat Hut)