ジョージィ・フェイムは英国のポピュラー音楽界のすそ野の広さと懐の深さを象徴する存在だと思います。1960年代半ばに3曲の全英1位シングルを発表して人気を博したこともさることながら、その後の地味ながらも息の長い活躍が眩しすぎます。

 コンスタントに音楽活動を続けており、忘れかけた頃にヴァン・モリソンに起用されたり、ビル・ワイマンのツアーに参加したりと日本でも話題になる、そんな人です。アシッド・ジャズの隆盛や日本でも渋谷系の流行などをきっかけに何度も再評価されています。

 日本だと誰にあたるのかを考えてみたのですが、なかなか思いつきません。ジャンルは違いますが、岩崎宏美なんかがジョージィ・フェイム的かもしれませんね。ネット時代はむしろビッグ・アーティストの寡占が進んでいるそうですから、心配です。

 さて、本作品はジョージィ・フェイムが1971年に発表したアルバム「ゴーイング・ホーム」です。世界初CD化は日本のソニー・ミュージック・エンタテインメントが2001年に敢行しました。英国本国よりも日本での人気が高いアルバムです。

 この作品はディスコグで調べると、そのジャンルが「ジャズ、ファンク/ソウル」とされ、スタイルは「リズム&ブルース」とされています。そして日本では一般に「ソフト・ロック」作品と認識されています。その全部が正解なのでしょう。

 フェイムは「イギリスの伝説のキーボーディスト」と紹介されており、そのオルガンのプレイに定評があります。キャリアの出発点はエディ・コクラン、ジーン・ヴィンセントのUKツアーのピアニストでした。オルガンはその後ブッカーTなどの演奏に触発されてからのことです。

 いずれにせよ、ロックンロールから始まり、スカやソウル、ファンクに親しむようになり、さらにはビッグ・バンドでカウント・ベイシーと共演したりと、混沌とした1960年代にそれらのすべての要素を吸収して独自のスタイルを築いていったことが分かります。

 しかし、ことさらにスタイルの実験を行っているわけではなく、そうした素養が自然ににじみ出るソフト・ロックとしかいいようのないスタイルとなっています。その典型がこのアルバムで、「ソフト・ロック・ファンには昔から良く知られたアルバム」です。

 本作品ではフェイムのオリジナルは一曲もなく、全12曲がR&Bやポップスのカバーで構成されています。ケニー・ランキンの「ピースフル」、アトランタ・リズム・セクションの前身であるクラシックスIVの「ストーミィ」などが有名どころだということです。

 私は本作品を聴く前にオリジナルを知っていたわけではないので、まったくフェイムのオリジナルに聴こえます。それは、大らかなオルガンと落ち着いた歌声が、生き生きと渋いリズム・セクションやホーンを加えて光り輝く姿です。まったくもって渋いいいアルバムです。

 ジャケットは表が典型的なイギリスの地方都市の暗い姿、裏は自転車で向かってくるフェイムの楽しげな姿を写した淡い色調のカラー写真とまったく対照的な絵柄になっています。サウンドはむしろ裏ジャケットに合います。表の方は階級社会を考えさせられますね。

Going Home / Georgie Fame (1971 CBS)