私が老婆心から勝手にその成長を見守っているジェイムズ・ブレイク君の約3年ぶりの作品「アシューム・フォーム」です。もはや音楽シーンの前線にどっかと腰を下ろすまでになったジェイムズの姿に私は安堵しています。大きくなりました。

 しかも恋までしています。このアルバムの頃には女優のジャメーラ・ジャミルと交際していることが公になっており、赤裸々な気持ちを歌詞にのせて歌っています。若者はやはり恋をしてなんぼです。これまた安堵ポイントは極めて高いです。

 前作は初めて外部プロデューサーを全面的に迎えて制作されました。本作品ではよりジェイムズが主導する形で何人ものプロデューサーを招いています。おまけにフィーチャリング・アーティストとして主にボーカルにゲストの参加を得ています。

 宅録から出発したジェイムズですが、ジェイZ、ケンドリック・ラマー、アンダーソン・パークと今やメインストリームのスーパースターの作品に参加するまでになっています。本作品に招かれたトラヴィス・スコットもジェイムズが彼の作品に参加した縁での招聘でしょう。

 その他にフィーチャーされているのはスペインのシンガー、ロザリア、ガーナ育ちのシンガー・ソング・ライター、モーゼズ・サムニー、そしてアウトキャストのアンドレ3000です。いずれもボーカルでの参加です。それだけボーカルの比重が高いアルバムです。

 ジェイムズも他のアーティストの作品に参加する際にボーカリストとしての比重を増してきており、本作品はそれをさらに突き進めたかのようなシンガー・ソング・ライター仕様となっています。クラブ・ミュージックの文脈から出てきたという出自が信じられないくらいです。

 とはいえ、エレクトロニクスを駆使した緻密な音作りはますます堂に入ったものになっています。こうした音作りは今やメインストリームのど真ん中ともいえます。ビリー・アイリッシュなどと同じ範疇に入るサウンドです。イギリスでいえばレディオヘッドに近いものを感じます。

 そうしたサウンド作りをジェイムズとともにプロデュースしているのは、まずはエレクトロニクス・デュオのマウント・キンビーでの活動が知られる盟友ドミニク・メイカーで、アルバムの半分に彼の名前が見られます。ジェイムズとは随分と気が合うようです。

 さらに「世界で最も需要のあるヒットメーカー」と称されるメトロ・ブーミンも招聘されています。彼はトラヴィス・スコットやウィークエンド、ポスト・マローンなどと係わっており、メインストリームのど真ん中を闊歩する御仁です。

 ついでに恋のお相手ジャメーラも共同プロデュースに名を連ねています。これだけヒップホップ系のメインストリームで仕事をしていても、やはりジェイムズの作品はとてもパーソナルな感覚が強いのはそのせいもあるかもしれません。

 2010年代のシンガー・ソングライターの一つの完成形かもしれません。緻密なエレクトロニクスとともにパーソナルを突き詰めて普遍にたどり着いたような絶唱が堪能できます。しっかりと顔をだしたジャケットは初めてです。雄々しく羽ばたくジェイムズ君でした。

Assume Form / James Blake (2019 Polydor)