ライコディスクは米国のインディペンデント・レーベルとして1983年にスタートし、当時は画期的なことにCD専門の旗を掲げ、驚きのリイシューを連発してファンを狂喜乱舞させたものです。ライコの目玉の一つがフランク・ザッパ先生の作品のリイシューでした。

 1980年代後半に過去作品をCD化するにあたって先生が選んだのはライコでした。この時の関係がよかったのか、ライコは1994年の秋にザッパ・トラストから過去作品の音源を譲り受けます。そうして、新たな衣装を施したCDリリースが行われたのでした。

 なお、その後、ライコは身売りを重ね、何の因果か先生の宿敵ワーナー・ブラザーズの傘下に入ってしまいます。その結果なのか、2012年に音源の権利はザッパ家に戻ることになりました。現在発売されているCDはそちらのバージョンですね。

 さて、先生の音源を入手したライコの創業者ドン・ローズはもちろん先生の天才ぶりを高く評価していました。それと同時に、どうしてアメリカという国は死んでしまった後にならないと天才を正しく評価できないのかと嘆いており、このディールは格好の好機到来です。

 ここでザッパ先生のカタログ管理の任に任命されたのがジル・クリスチャンセンです。彼女は音楽業界には長く、ライコとも良好な関係を築いておりました。そこにこの仕事が舞い降りてきたわけですけれども、何と彼女はそれまで先生の曲を聴いたことがなかったそうです。

 しかし、幸いなことにそれから5か月間、みっちりと先生の音源に向き合ったおかげで、先生のサウンドの虜になってしまいます。まあ当然ですね。彼女は愛をもって先生の作品に向き合い、すべての作品のリイシューに全力を注ぎます。

 その結果、ライコは先生の53作品をいっぺんに発売するという快挙に出ました。この時に各作品に施されたリマスターの数々は先生の遺志をついで行われ、見事に決定盤となりました。1980年代後半のものはノベルティとして貴重ではありますが。

 ライコは全作品を一気に発売するにあたって、サンプラーとしてベスト・アルバムを発売しました。それが「ストリクトリー・コマーシャル」と題された作品です。選者はもちろんジルです。そこでは先生の作品の中では比較的コマーシャルな曲が選曲されました。

 この作品はそれから2年後に発表されたもう一つのベスト・アルバムです。題して「ストリクトリー・ジェンティール」、副題は「クラシカル・イントロダクション」です。オーケストラ作品などのインストゥルメンタル曲をまとめた編集盤です。もちろん選者はジルです。

 「ストリクトリー・ジェンティール」を最後に持ってくることをまず決めて、1曲はギター・ソロをという先生のアルバム作りのセオリーにしたがって「デューク・オブ・プルーンズ」のオーケストラ版を真ん中にもってきて、と選曲の模様を想像すると楽しいです。

 全作品をほぼ同時に耳にしたジルならではの虚心坦懐な選曲が素晴らしいです。シンクラヴィアの「Gスポット・トルネード」もあり、フランチェスコもあります。これを聴いて、全作品を欲しくなる人が続出したのではないかと思います。やはりザッパ先生は最高です。

Strictly Genteel / Frank Zappa (1997 Ryko)