デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズをネットで検索してみると、多くのサイトが一発屋扱いしています。私はリアルタイムでこの作品を聴いていましたが、彼らはすでに全英1位ヒット「ジーノ」がありましたし、本格派とされていたのでそんな扱いには違和感があります。

 しかし、確かに「カム・オン・アイリーン」の衝撃は大きすぎました。英米で1位、それもアメリカではわずか1週の1位ですが、直前はマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」、直後は同じくマイケルの「今夜はビート・イット」です。これは単なる1位ではなく、記憶に残る1位です。

 本作品はその「カム・オン・アイリーン」を含む、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのセカンド・アルバムです。邦題は発売当時からとんでも邦題扱いされていた、これまた記憶に残る「女の泪はワザモンだ!!」です。これはちょっとアーティストにも失礼です。

 ただ、「カム・オン・アイリーン」のMVやライヴで、みんなでステップを踏む姿を見て、大笑いした身としてはレコード会社の気持ちも少しは分かります。まったく変なバンドです。当時はどこまでシリアスなんだかよく分からなかったというのが正直なところです。
 
 デキシーズは1980年に名盤とされるデビュー作「若き魂の反逆児を求めて」を発表し、これを大ヒットさせています。本作品はそれに続くセカンド・アルバムですけれども、参加メンバーは2人を除いてがらりと入れ替わっており、まるで別のバンドのようになっています。

 残ったメンバーは中心人物のボーカリスト、ケヴィン・ローランドとトロンボーンのジミー・パターソンのみです。そして、特筆されるのはエメラルド・エクスプレスこと、ヘレン・オハラとスティーヴ・ブレンナンの二人のフィドル奏者の参加です。

 冒頭の1曲「ザ・ケルティック・ソウル・ブラザーズ」で衝撃的に登場するフィドルのサウンドによって、彼らがアングロ・アイリッシュとしてのアイデンティティーを主張する姿勢が鮮明になりました。「オレはアイルランド系の建築労働者の息子」だとケヴィンは語ります。

 この姿勢はヴァン・モリソンの名曲「ジャッキー・ウィルソン・セッド」をカバーしたことでも分かります。ケヴィンはモリソンにこのカバーを誉められてよほど嬉しかったようで、完成版からはカットされましたが、二人の短い会話が収録されるところだったそうです。

 フィドルの他にも、アコーディオンやホーン陣が活躍する賑やかなサウンドがデキシーズの持ち味で、アイリッシュと米国のソウル・ミュージックの影響をベースにしたさまざまなスタイルの楽曲が全10曲詰まった大変充実したアルバムになりました。

 そして「カム・オン・アイリーン」です。英国では結婚式のダンス曲の定番となっている名曲で、ニュー・ロマンティックの時代にあえてオーバーオール姿を選択したケヴィンの慧眼も冴え、時代を超える生命を獲得したのでした。陽気で快活な曲は時代を越えますね。

 この曲はアルバムの最後に収録されていますが、実はその後にケヴィンのアカペラによる古いアイリッシュ曲がワンコーラス収録されています。これも、ニュー・ウェイブ時代にあえて逆らうかのような仕草です。やはり彼らはシリアスなバンドなんです。

Too Rye-Ay / Dexy's Midnight Runners (1982 Mercury)

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