「日本が生んだファンキー・ドラマー、石川晶による傑作レア・グルーヴ・アルバム」のうたい文句に誇張など全くありません。「信じられないクオリティの曲が並ぶ」もよいのですが、「これぞ生まれながらの真性レア・グルーヴ・アルバム」はどうでしょう。

 発表当時からレア・グルーヴというのも失礼な話ではあります。しかし、そもそもレア・グルーヴという言葉は特定のサウンドと結びついてはいないはずなのですが、なぜかこのアルバムを聴くと、なるほど典型的なレア・グルーヴだなと了解されてしまいます。面白いです。

 1934年生まれのファンキー・ドラマー石川晶は17歳の時から本格的な演奏活動を始めており、さまざまなグループでの活動に加えてスタジオ・ミュージシャンとして実に幅広い活動を行っています。一説によればグループサウンズのほとんどは石川がドラムを叩いているとか。

 本作品は石川が1975年に発表したアルバムです。演奏は「石川晶とその友だち」とクレジットされていることからも分かる通り石川と同じくスタジオ・ミュージシャンとして日本の音楽業界を裏から支えてきた腕利きのミュージシャンたちです。

 どういう経緯で制作されたのかはよく分かりませんが、腕のいいミュージシャンに自由に作品を作らせるとこんな作品が出来上がるのかと嬉しくなる作品です。とにかく自由度の高い作品です。ジャズの枠内にとどまることのないぱきんぱきんのファンキー作品です。

 選曲がまず面白いです。まずはグラディス・ナイト&ザ・ピップスの「イマジネイション」、インクレディブル・ボンゴ・バンドの演奏で知られる「ボンゴ・ロック」、ファンク・バンドのBTエクスプレスの「ドゥ・イット」、アヴェレイジ・ホワイト・バンドの「ピック・アップ・ザ・ピーセス」。

 これらの曲やスタイリスティックスの「ラヴ・イズ・ジ・アンサー」、スティーヴィー・ワンダーの「レゲエ・ウーマン」などの曲はいかにもファンキーですからとても分かりやすいです。石川とその仲間たちはこれらの曲をいかにもファンキーにきめています。

 意表を突いてくるのがビートルズの「ヘイ・ジュード」です。ここでは石川はスワヒリ語で歌っており、最初はこれが「ヘイ・ジュード」だとはなかなか分からないアレンジになっています。さらにサイモンとガーファンクルで有名な「コンドルは飛ぶ」のアフロ・バージョン。

 重いグルーヴで異彩を放つボブ・マーリーの「アイ・ショット・ザ・シェリフ」、そして極めつけはフェラ・クティの「レッツ・スタート」です。一瞬、フェラ本人かと思ってしまう石川の掛け声から始まる、これまた重いアフロ・ビートは絶品です。ギターや寺川正興のベースもかっこいいです。

 どの曲もアレンジが秀逸で、密室芸的なファンクの演奏がとても映えます。やはりスタジオ・ミュージシャンを野放しにすると面白い結果が生じるのだなという妙な感慨を抱きます。このグルーヴは得難く、レア・グルーヴとして再評価されることは必然だったのかもしれません。

 ジャケットにはウガンダ当たりの地図が描かれており、「バック・トゥ・リズム」というタイトルと合わせて、石川のアフリカ指向は明白です。そのアフリカ愛は本物で、石川は晩年をケニアで過ごしています。ジャケットの大らかな笑顔はとてもアフリカ的ですね。

Back To Rhythm / Akira Ishikawa (1975 コロムビア)