ちょうどこのアルバムが発表された1981年ごろ、私は友人が雇われマスターをしている喫茶店に入り浸っておりました。そこでは友人が趣味でBGMを選んでおり、ウェストコースト・サウンドやフュージョン系、このパブロ・クルーズなどもよくかかっておりました。

 まさに青春です。パブロ・クルーズのサウンドはそういう状況で聴くのが一番ふさわしいと思います。今、聴いてもあの頃のことがよみがえります。日がな一日居座ったので、もちろん忙しい時には無償でウェイターから何からやっておりました。ああ懐かしい。

 パブロ・クルーズのことをハワイのバンドだと思っておりましたが、彼らはカリフォルニアのバンドでした。初期にはカリフォルニアのサイケデリックを象徴するバンド、イッツ・ア・ビューティフル・デイのメンバーも含まれていました。

 なぜハワイのバンドだと思ったかというと、1970年代中ごろにカラパナやセシリオ&カポノなどのハワイ勢が中心になったサーフ・ロックのブームがやってきており、パブロ・クルーズもサーフ・ロックと目されていたからです。いかにもサーフ・ロックらしいサウンドでしたし。

 この作品は1981年に発表されたパブロ・クルーズの6枚目のアルバム「リフレクター」です。彼らの代表作は1970年代後半の「ア・プレイス・イン・ザ・サン」や「ワールズ・アウェイ」の方で、この作品は最後のトップ40ヒットとなった黄昏の作品といえます。

 メンバーはコリー・レリオス、デヴィッド・ジェンキンス、スティーヴ・プライスの中核3人は変わらず、新たに西海岸でセッション・ミュージシャンとしてならしたベースのジョン・ピアースが入り、さらにギターでアンジェロ・ロッシが加入して5人組になっています。

 そして、さらに大きな変化として、プロデューサーに「いとしのレイラ」をミックスした男、オールマン・ブラザーズ・バンドとの係わりで知られるトム・ダウドが起用されました。サザン・ロック色が強いダウド、最もサーフィンから遠い男のイメージです。知らんけど。

 そのダウドの影響もあるのでしょう、爽やかなコーラスの魅力はあるものの、サーフ・ロックの雰囲気は薄れており、TOTOや後期のドゥービー・ブラザーズ的なロック・サウンドが展開しています。1980年前後のソフト・ロックとして充実した作品だと思います。

 そもそもこの頃のサーフ・ロックは、サーフィンをテーマにしたロックということではなく、サーファーが好む音楽という定義ですから、これがサーフ・ロックかどうかはサーフィンにはまるで縁のない私には判別する資格など全くありません。大変失礼しました。

 アルバムからは「クール・ラヴ」と「スリップ・アウェイ」がシングル・カットされ、前者は全米13位の大ヒットになりました。しっとりとしたテンポの楽曲で、パブロ・クルーズの魅力の新たな側面を見せてくれます。「スリップ・アウェイ」も渋いいい曲です。

 重いリズムのインストゥルメンタル部分がかっこいい「ドラムズ・イン・ザ・ナイト」など、ピアーズの活躍も目立ちます。サーフ・ロックであってもなくても、喫茶店でよく聴いたパブロ・クルーズの新譜ですから、いろいろな想い出が浮かび上がってうるうるします。

Reflector / Pablo Cruise (1981 A&M)