「ニュー・ロマンティックスはここから始まった!」、私が考えたべたなキャッチコピーですが、「80年代初頭のロンドンで隆盛を極めたニュー・ロマンティック・ムーヴメントの中心人物」がスティーヴ・ストレンジ、そのスティーヴの率いたバンドがヴィザージでした。

 ニュー・ロマンティックスと言えば、ヴィジュアル系のニュー・ウェイブ・バンドで、当初はシンセ・バンドというイメージでした。しかし、デュラン・デュランやカルチャー・クラブなどが出てきて、ヴィジュアルのみが共通項になっていきました。

 本作品は1980年に発表されたヴィザージのデビュー・アルバムです。セルフ・タイトルのアルバムですが、日本では本作からの大ヒット・シングル「フェイド・トゥ・グレイ」をアルバム・タイトルにもってきました。商業的には正しい判断であろうと思います。

 この頃にはすでにゲイリー・ニューマンがシンセを使い倒して大ヒットを生んでいましたが、同じような路線ながら、圧倒的にヴィジュアルに気を配っていたヴィザージが登場したことで、一気に大衆を巻き込んだムーヴメントが誕生しました。この影響は大きかった。

 スティーヴも当時の英国の若者の例にもれず、セックス・ピストルズのライヴに影響を受けて音楽業界に入った人です。自身のパンク・バンドは成功しませんでしたが、ナイトクラブを立ち上げて、そこを拠点に新しい流行を生み出していきます。プロデューサー気質ですね。

 そして、スティーヴは自身のナイトクラブのパートナーでもある元リッチ・キッズのラスティ・イーガン、そのバンドメイトだったミッジ・ユーロやマガジンのメンバーとともにシンセを中心としたポップ・バンド、ヴィザージを立ち上げます。1978年のことです。

 リッチ・キッズはピストルズにいたグレン・マトロックのバンドですし、マガジンはバズコックスにいたハワード・デヴォートのバンドですから、パンク人脈としては主流に近い。そして、バンド・メンバーは界隈ではとても有名になる人ばかりです。さすがに目が高いです。

 中でも、後にスージー&ザ・バンシーズなどで活躍するジョン・マッギオーク、後にウルトラヴォックスで大ヒットをとばすミッジ・ユーロの存在が目をひきます。ここでのサウンドに中心的な役割を果たしたのは明らかにミッジ・ユーロでしょう。

 そのサウンドはこの時代を代表する典型的なシンセ・ポップ・サウンドです。ザ・シンセサイザーとも言うべき音で、どこかエキゾチックなムードを持つリズムやメロディーを交えたポップなサウンドが素敵です。祭りばやしのようだったりして、楽しいことこの上ないです。

 そしてグラム・ロックをしゅっとさせたようなヴィジュアルは、音楽業界を一変させたのではないでしょうか。スティーヴの店で働いていたというボーイ・ジョージも彼がいなければああいうヴィジュアルには到達しなかったかもしれません。

 名曲「フェイド・トゥ・グレイ」ほか、ヒット性の高い曲が満載で、振り返ってみればミッジ・ユーロによる習作群というイメージもあります。このサウンドは一世を風靡するので、似たようなサウンドを耳にすることは多いかもしれませんが、ルーツの一つはこのヴィザージです。

Visage / Visage (1980 Polydor)