親ばか大賞を差し上げたいと思います。ビョーク11歳のデビュー・アルバムです。まだほんの子どものビョークが可愛らしく歌っています。インストゥルメンタル曲もあって、そこではこれまた可愛らしいビョークのリコーダーを聴くことができます。

 とても悩ましい話ですが、私が持っているCDはオリジナルと同じレーベルから出ているものの、非公式なものとして扱われています。再三申し上げている通り、私は非公式なアルバムは買わない主義なのですが、これは気づかずに買ってしまいました。すみません。

 LPとカセットで発売されたオリジナル盤はほとんどアイスランドから外に出ていないそうで、びっくりするくらいの高値が付けられています。後にビョークは大スターになりますから、スターの子ども時代のノベルティとして収集アイテムになるのはよく分かります。

 ビョークは1976年に通っていた音楽学校の縁でラジオに出演して歌を披露しています。その出演がレコード契約に結びつき、制作されたのがこのアルバムです。セルフ・タイトルで、「ビョーク・グズムンズドッテイル」です。アイスランドでは個人名+父称なのだそうです。

 レコード制作を後押ししたのはビョークのお父さんです。親ばか大賞を差し上げる所以であります。アルバムを聴けば聴くほど親ばかを確信していくことになります。選曲やら曲のアレンジやらのセンスは恐らくはお父さんのものでしょう。

 アルバムはいきなりシタールの音で始まります。というとさすがはビョークとなりそうですが、この曲はお父さんの作った曲「アラバドレグリン」、訳して「アラブの男の子」で、ぺらんぺらんのアラブ趣味全開の怪しげな曲です。ただしビョークの可愛らしい声が映えています。

 こうしたオリジナル曲の他にカバー曲が4曲含まれており、その選曲が面白いです。まずはスティーヴィー・ワンダー作曲でシリータ・ライトが歌った曲「ユア・キス・イズ・スウィート」、エドガー・ウィンターのミリオン・セラー・アルバムから「アルタ・ミラ」。

 ビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」に米国の歌手メラニー・ソフィカの「クリストファー・ロビン」です。いずれもアイスランド語の歌詞で歌われます。なぜ、その曲をという選曲ばかりで、これも父親の指金ではないかと疑われるところです。

 面白いのはインストゥルメンタル曲です。「ヨハネス・キャルヴァル」は同名の画家に捧げられた曲で、ビョークが作曲し、自らリコーダーを吹いています。いかにも小学生らしい情感豊かな曲です。ビョークのリコーダーは本当に可愛らしいです。

 日本だと大人顔負けのちびっこ民謡歌手が出てきたりするところですが、ここでのビョークはとても子どもらしいです。等身大の11歳が一生懸命に歌っています。演奏も子どもを盛り上げようと頑張っている感じです。例のアラブもみんなのうた的ですし。

 ただし、このアルバムはビョークの公式ディスコグラフィーからは抹消されています。そりゃそうでしょうね。楽しい作品ですけれども、アーティスト、ビョークの作品とはとても言えません。子ども時代を記録した親ばかアルバムとして親になった気分で楽しみましょう。

Björk Guðmunsdóttir / Björk (1977 Fálkinn)