最も英国らしいバンドの一つ、ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドのデビュー・アルバム「ゴリラ」です。ジャケットのゴリラはもちろん着ぐるみで、英国では標準的なものです。日本の方がよほど写実的ですよね。何故かイギリス人はこのタイプが好きなようです。

 ボンゾズはアート・スクールに通っていたロドニー・スレイターとヴィヴィアン・スタンシャルが結成したバンドです。1962年9月、ソニー・リストンとフロイド・パターソンのボクシング・ヘビー級タイトルマッチの夜なのだそうです。まだビートルズ登場前の話です。

 最初は20年代から30年代に流行ったジャズを演奏していたのだそうで、バンド名は英国の人気キャラクター、ボンゾ・ドッグにダダイズムのダダをくっつけたボンゾ・ドッグ・ダダ・バンドとされました。面白バンド名ではありますが、商標権など大丈夫だったんでしょうかね。

 バンドにはメンバーが次々と集まり、結局9人編成の大所帯バンドとなりました。その中では断然ニール・イネス、後のラトルズが光ります。というか私はスタンシャルとイネスしかよく知りません。この二人はいかにもディープ英国人として脳裏に刻まれています。

 バンドはダダをドゥー・ダーに替えて、本格的に活動を開始します。彼らはビートルズと同じパーロフォンからレコード・デビューしたものの、なかなかぱっとせず、名前が知られ始めるのは、ビートルズの「マジカル・ミステリー・ツアー」に出演してからでした。

 この頃にはバンドの音楽はジャズ重視からボードヴィル的でコミカルなものになっており、ビートルズにそこを評価されての出演です。バンドはこの頃には9人編成から7人編成にスリム化し、さらにレーベルもパーロフォンからリバティーに移籍しています。

 本作品は、映画出演の直前、1967年10月に発表されたデビュー・アルバムです。内容はもうこれ以上ないくらい英国的です。よそ者にはなかなか近づけないアイロニー精神に満ち満ちた英国流ユーモアの世界が徹頭徹尾貫かれています。

 わずか35分の間にそれぞれスタイルが異なる15曲が詰め込まれています。たとえばマジカル・ミステリー・ツアーでも披露されたスタンシャルとイネスの曲ですが、これはエルヴィス・プレスリーのパロディーになっています。まんまプレスリーのボーカルです。

 またアルバム末尾の「サウンド・オブ・ミュージック」はあの有名な映画の主題歌ですし、「思いでのサンフランシスコ」のカバーも収録されています。オリジナル曲もカリプソからビートルズやディズニーまで、幅広い曲調で一つの完成したショーが展開していきます。

 最も彼ららしいのが「ジ・イントロ・アンド・ジ・アウトロ」でしょうか。昔風のジャズ演奏にのせて、バンドが紹介されていきます。最初は正しいのですが、やがてヒトラーが出てきたりとフィクションになっていきます。ただしエリック・クラプトンは本当に参加しているそうです。

 これだけ幅広いスタイルの音楽を一大絵巻のようにまとめていく手腕は凄いものがあり、映画を一本見るように聴き通すことができます。録音も高品質です。あまりに英国的なので、懐に入り込むことは難しいのですが、それでも十分に楽しいアルバムです。

Gorilla / Bonzo Dog Doo-Dah Band (1967 Liberty)