傑作「アメリカン・イディオット」から5年、どちらの方向に向かうのかと思っていたら、グリーン・デイの久しぶりの新作「21世紀のブレイクダウン」は前作以上に壮大なコンセプト・アルバムとなっていました。パンク方向というより、ストーリー指向になっていったわけです。

 アルバムは「ソング・オブ・ザ・センチュリー」で幕を開けると、そこから3部構成のストーリーが始まります。第一幕は「ヒーローとペテン師」で6曲、第二幕は「いかさま師と聖人」の6曲、第三幕は「馬蹄と手りゅう弾」の5曲ですが組曲込みなので、実質6曲の構成です。

 お話の主人公はグロリアとクリスチャンの若いカップルで、彼らの生きる現代社会を鋭くえぐった歌詞が大きな話題となりました。ビリー・ジョー・アームストロングはこの作品のために45曲もの曲を書いたそうで、練りに練って歌詞を書いたことが分かります。

 ニクソン大統領やブッシュ大統領を痛烈に批判し、キリスト教福音派の不寛容さに刃を向ける歌詞は1960年代終わりから70年代にかけてのロックを彷彿させ、なぜか久しく忘れていたロックの批判精神を思い起こさせてくれます。

 昔のロックとの係わりは映画評論家の町山智浩氏の解説を聴いてなるほどと思いました。タイトル曲の最初の部分でわずか4行に「マイ・ジェネレーション」、「ワーキング・クラス・ヒーロー」、「21世紀の精神異常者」、「19回目の神経衰弱」が引用されています。

 ザ・フー、ジョン・レノン、キング・クリムゾン、ローリング・ストーンズとロックの伝説が顔を出しているんです。さらに歌詞にとどまらず、サウンド面でもこれまでのロックの歴史があちらこちらに顔を出します。実際、この5年ビリー・ジョーは昔のLPを聴きまくったそうです。

 前作は意外にバラエティーに富んだサウンドながら全面パンクな感じがしたものですが、本作品はパンク一辺倒ではなく、ロックの万華鏡のように聴こえます。「ラスト・ナイト・オン・アース」や「21ガンズ」などバラードの名曲も大変座りがいいです。

 プロデューサーにはニルヴァーナの「ネバーマインド」で知られるブッチ・ヴィッグに白羽の矢が立ちました。音の塊が寄せてくるパンク仕様というよりもそれぞれの楽器の音が際立つ迫力あるロック仕様のサウンドになったのはヴィッグの力も生きているのでしょう。

 70分近い大作は全米初登場1位の他、英国やヨーロッパ諸国、さらには日本でも1位を記録しています。さらにグラミー賞の「最優秀ロック・アルバム賞」も受賞と、セールスも評論家の受けも大変良好な結果を残していますが、前作の特大ヒットには及びませんでした。

 スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンは「アメリカン・イディオット」をギター主体のロックで大衆に広くアピールした最後の作品だと語っています。前作をさらにロック的に深堀した本作品は確かにロックの黄昏の兆しを現わしているような気がします。

 非の打ちどころのないロック作品だと思うのですが、私などの世代にはどこか懐かしく感じられ、嫌な言葉ですが「大人のロック」的なサウンドです。ここらあたりから、ロックと若い世代とのギャップが顕在化してきたのかなと複雑な気にさせてくれます。いいアルバムなんですが。

21st Century Breakdown / Green Day (2009 Reprise)