虚飾集団廻天百眼に所属する女優、十三月紅夜による劇団入団10周年を記念するソロ・ベストアルバムです。タイトルはそのまんまを英語にしています。シアター・オブ・ザ・ルナティックが虚飾集団廻天百眼の英語名なんですね。

 十三月紅夜は「燦爛たる魔女」の異名を持っており、ファッションショウ・モデルとしても活躍している女優です。彼女のアトリエ十三月では、「造形、舞台美術、小道具制作、美粧(メイク・ヘアメイク)、身体装飾」の製作や監修を請け負っています。ビジュアルな人です。

 彼女はまた総合芸術集団として2021年春に正式始動したACM:::の中心メンバーでもあります。このベストアルバムの音楽をプロデュースしているのは、同じACM:::の中心メンバーである西邑卓哲です。彼は本作品のほぼ全曲を作曲してもいます。

 この作品は公式サイトによれば、「廻天百眼における代表曲をソロ向けにアレンジ&再録した楽曲の他、幻の未発表曲、そして新曲を多数収録!舞台音楽を通じて昭和歌謡や爆音サイケ、ポストパンク的アプローチをした楽曲群を十三月紅夜が駆け抜ける!」。

 その説明通り、まずは彼女の廻天百眼における代表曲「犯罪と宝石」で幕を開けます。これは劇団の2017年公演「悦楽乱歩遊戯」の一曲で、十三月はこの中で黒蜥蜴を演じています。江戸川乱歩・三島由紀夫の黒蜥蜴です。

 この他に劇中歌とされるのは、私と虚飾集団廻天百眼の出逢いとなった「少女椿」、「鬼姫」、「不思議の国のアリス・オブザデッド」からの楽曲です。いずれもいかにも舞台劇の中で歌われる歌らしい楽曲で、舞台が目に見えるような感じがします。見たことないんですが。

 アルバム中唯一西邑の作曲ではない「世界史の荒野」は廻天百眼のスター二人、紅日毬子(あかひまりこ)と桜井咲黒(さくらいざくろ)の台詞がぶつかる楽曲で、これをアルバムの最後にもってくるあたりが劇団への愛を感じさせてくれます。

 異色な曲は「ペトリコール」です。これは西邑のソロ演奏をバックに十三月が呻く曲です。また「十三番目の輪舞曲」は十三月と「「矯撃の花火」鬼口モモカによるピアノ・デュオです。さらにエモい歌唱の「正体」とまあ、さまざまなタイプの曲が詰め込まれています。

 紹介にあった通り、昭和歌謡的なのですが、ここでいう昭和歌謡は一般に言われる昭和歌謡というよりも、戦前の香りもします。むしろ大正浪漫といってもいいくらいです。もちろん楽曲は爆音サイケであったり、ポストパンク的だったりするのですが、それを含めて大正。

 劇中歌が中心ですから、しっかりと歌詞を伝える歌唱ですし、その歌詞にも意味が込められています。それもまた昭和。もちろんプログラミングを多用もしているのですが、演奏も基本的には昭和、ギターのサウンドが懐かしく響きます。

 そんな十三月紅夜の魅力はまさに黒蜥蜴です。黒蜥蜴といえば美輪明宏の代名詞でもありました。三島由紀夫に指名された話は有名です。その美輪明宏とためを張るのですから頼もしいです。めくるめく妖しい世界をこれからもますます期待したいです。

10th Anniv. Theatre Of The Lunatic / Juusangatsu Koya (2021 虚飾集団廻天百眼)