ジャケットを見ただけでは小人かとも思ってしまいますが、ゲイトフォールドを開いてみると、これは確かに優しい巨人、ジェントル・ジャイアントであることが分かります。この巨人の物語はジャケットの内側にしっかり記載されています。巨人にこだわったバンドです。

 ジェントル・ジャイアントはデビューから半世紀が経過しましたが、今でも根強い人気を誇るバンドです。2019年には何と30枚組ボックスセットまで発売されています。スタジオ・アルバムは11作しかありませんから、これはまさに彼らの活動を網羅しています。

 バンドの中心はスコットランドのグラスゴー生まれのシャルマン兄弟です。父親がトランぺッターだった環境に育った三兄弟は仲良くバンドを結成して、1967年にはレコード・デビューしています。サイモン・デュプレー・アンド・ザ・ビッグ・サウンドがその前身バンドの名前です。

 この作品はセルフ・タイトルのデビュー作です。発表は1970年11月、英国はプログレッシブ・ロックの時代に突入していました。ジェントル・ジャイアントは、コマーシャルに向かっていった前身バンドを潔しとせず、プログレをやるために結成されたバンドです。

 プログレ・バンドをやるために必須なのは腕が確かなミュージシャンです。三兄弟の熱い気持ちは実り、キーボードにケリー・ミネア、ギターにゲイリー・グリーン、ドラムにマーティン・スミスといずれも凄腕のミュージシャンが集います。すでにデビューしていたのは強いです。

 プログレの波にのったバンドは、その高い演奏力をみせつけるライヴが評判となり、あっという間にまだ出来たばかりのレーベル、ヴァーティゴと契約を交わすことができました。本作品はそのヴァーティゴから発表されたデビュー・アルバムです。

 プロデューサーはトニー・ヴィスコンティです。振り返ってみるとこれはかなり意外な人選に見えますが、この頃、ヴィスコンティはプロデューサーとしては駆け出しに近く、有名な作品としてはティラノザウルス・レックスやデヴィッド・ボウイの初期作品があるくらいです。

 それを考えると、デビュー作にして注目を集めていたジェントル・ジャイアントはヴィスコンティの出世作になるのかもしれません。癖のあるへなへなサウンドだけではなく、テクニカルなプログレ作品もちゃんとプロデュースできるんだぞと世間にアピールできました。

 本作品のサウンドはジャズ・ロック方面のザ・プログレ・サウンドです。クラシックとの融合方面というよりも、変拍子を多用したサウンドを構築していくサウンドです。複雑でタイトなリズムが洪水のように押し寄せてきます。この手のサウンドは古びません。

 一方、美しいコーラス・ワークを生かしたり、少しトラッドっぽい側面もみせたりと、確かな演奏技術で懐の深さを存分に思い知らせてくれます。満を持したデビュー作だけにその完成度は極めて高いです。しかし、それが災いしてさほど売れなかったということなのでしょう。

 とはいえ、瞬発力はなくとも持続力はあります。日本でも何度も再発されていますし、もはやいつの時代の作品なのか意識させないアルバムとなっています。プログレッシブ・ロックとはどんなサウンドかと問われたら、この作品を聴かせることをお勧めします。

Gentle Giant / Gentle Giant (1970 Vertigo)