テレビで歌う姿を見ただけで、子ども心に見てはいけないものを見ているという背徳感を感じました。コケティッシュ爆弾チヨこと奥村チヨです。この作品は2002年に発売された奥村チヨのベスト・アルバムです。「ゴールデン☆ベスト」シリーズの一環として企画されました。

 奥村チヨは高校在学中の1964年のことです。それから作曲家の浜圭介と結婚して第一線を退く1974年までが彼女の歌手としての全盛期です。その後、歌手活動を再開してからは、誰もが知る歌手として、派手ではありませんがマイペースで活動を続けています。

 このベスト盤は「究極のベストアルバム!」と宣伝されていますけれども、大ヒット曲は網羅されているものの、東芝レコードから移籍した1980年以降の曲は収録されていませんから、「究極」というのは歌手復帰以降のチヨさんに対してちょっと失礼な気がします。

 選曲もなかなか面白いです。東芝時代の彼女のシングル曲は34曲ありますが、その中から16曲、B面曲が3曲、アルバムのみ収録曲が1曲という選曲です。さすがに恋三部作はつながっていますが、それ以外は収録順も時系列ではなく、バラバラです。落ち着かないです。

 それはともかく、奥村チヨの代表曲はといえば「恋の奴隷」です。この時、奥村チヨはまだ22歳でした。西城秀樹の曲を多く作曲することになる鈴木邦彦の曲の良さもさることながら、なかにし礼の歌詞がインパクトが大きかった。進んで奴隷扱いを願う女の歌ですから。

 この頃の歌謡曲の歌詞は総じて女性蔑視ですけれども、ここまでのものは珍しく、奥村チヨ本人も歌うことに最初は抵抗があったそうです。実際に、歌詞の内容を真に受けた男性がストーカーと化した事件もあったようで、恐ろしい話です。

 ただ、ここまで徹底すると今となっては男をバカにしているとしか聴こえません。それくらいには世間は進歩しました。自虐ソングとしても最高です。私の勤めていた会社が吸収合併されることになった時に、この歌をカラオケでみんなで歌ったことを覚えています。やけくそで。

 彼女のもう一つの代表曲は「終着駅」です。こちらもインパクトは凄かった。無表情で歌う奥村チヨの姿は脳裏に焼き付いています。夫となる浜圭介の畢生の名曲でしょう。歌詞も哲学的ですし、当時の歌謡曲の限界を越えた作品です。

 こうしてベスト・アルバムを聴いていくといろいろな発見があります。デビュー曲はシャンソンっぽくて、そのB面はシルヴィー・ヴァルタンの「私を愛して」のカバーです。その後、何曲かを置いてブレイク作「ごめんネ・・・ジロー」で一気にコケティッシュが爆発します。

 次いで本格的な大ヒットとなったのはベンチャーズの「北国の青い空」、原題は「ホッカイドー・スカイ」、その後、どんどん夜に向かい、「恋の奴隷」で大ブレイク、「恋三部作」を経て、アーティストとしての矜持を示した「終着駅」に到達する。そんな姿が浮かびます。

 こうしてみるとそれほどヒット曲があるわけではありませんが、彼女の姿をテレビでリアルタイムで見ている世代には絶大なインパクトを残しています。1960年代がブームになると必ず彼女に光が当たるのも分かります。主張するアーティストでもありました。

Golden Best / Chiyo Okumura (2002 EMI)