まずはこのジャケットです。ロンドンのウォータールー駅近くで撮影された足元だけの写真は大きなインパクトを見る者に与えました。ジョー・ジャクソン本人は自分の顔が写っていないことに不満だそうですが、この写真をジャケットに選んだのは慧眼です。

 写真家はブライアン・グリフィン、「ラッシュアワー、ロンドン・ブリッジ」で世間に認められ、ポップ・ミュージックの世界でもジャムやエルヴィス・コステロ、デペシュ・モード、リンゴ・スターにピーター・ガブリエルなどの写真を手掛けて80年代を代表する写真家となりました。

 この作品はグリフィンにとっても出世作の一つであり、ジョー・ジャクソンにとってはデビュー作にあたります。「奴に気をつけろ」のシングル・ヒットもあり、英国で40位、米国で20位となるヒットを記録しました。新人アーティストとしてはかなりの成功です。

 今となっては信じられないかもしれませんが、この当時、ジョー・ジャクソンはパンクと言われていました。エルヴィス・コステロと比べられたものですが、コステロもこれまたパンクと言われてました。スピード感あふれるシンプルなロックはこの頃は全部パンクでした。

 ジャクソンは英国王立音楽アカデミーでしっかりと音楽を学んだアーティストです。しかし、次第にロックに惹かれ、在学中からさまざまなバンドで演奏するようになります。それでもちゃんと卒業したジャクソンは自らデモ・テープを作成してレコード会社に送ります。

 これを気に入ったのが大手A&Mのプロデューサー、デヴィッド・カーシェンバウムです。無事に契約は成立し、カーシェンバウムのプロデュースで制作されたのが本作品「ルック・シャープ!」です。パンク時代でしたがメジャー契約、これもジャクソンらしいですね。

 編成はジャクソンのボーカルとピアノ、ゲイリー・サンフォードのギター、グラハム・メイビーのベース、デイヴ・ホートンのドラムという四人組です。このシンプルな編成がライヴ感覚でデモの再録音を行ったわけですから、わずか1週間でアルバムjは完成しています。

 サウンドはシンプルなロックンロールで、ジャムのデビュー作と同様の疾走感に溢れています。いかにもこの時代のロンドンのサウンドです。とはいえ、「インスタント・マッシュ」などはサザン・ロックかと思うギターを聴かせるなど、ごった煮感も強いです。

 宣伝コピーには「ブラック・ミュージックからの影響が見え隠れする洒落たセンスの光る1作」とあるのですが、それをいうならレゲエだろうと思います。この時代のロンドンの若者はみんなレゲエを聴いていたといいますからジャクソンもその例に漏れないわけです。

 あからさまなレゲエのリズムは「フールズ・イン・ラヴ」くらいですが、全体にギターのカッティング、乾いたベースやドラムなどにレゲエの影響は顕著です。ジャケットの感覚とあいまって、私はマッドネス、スペシャルズの系統にジャクソンを据えておりました。

 後に千変万化のサウンドを奏でるジャクソンのデビュー作として、シンプルな中に豊かなサウンドの種を胚胎させている風情が怪しくていいです。ストレートに楽しむこともできるし、深読みすることもできる。さすがはジョージャクソンです。デビュー時から一味違う。

Look Sharp! / Joe Jackson (1979 A&M)