太いエレキ・ギターの音が流れてきた瞬間に私の世代の人であればジミ・ヘンドリックスを思い出すことでしょう。この作品は「砂漠のジミヘン」として世界で注目を集めているニジェールのギタリスト、エムドゥ・モクターの新作アルバムです。

 ただし、モクターのギター・ヒーローはジミヘンではなく、エディ・ヴァン・ヘイレンです。ユーチューブで演奏するエディの姿が彼のインスピレーションの源となり、ギターを手作りしてまでのめり込んでいきました。ものすごい根性です。

 モクターはニジェール共和国北部にある砂漠の街アガデスを拠点に活動するギタリストです。部族としてはトゥアレグ族、砂漠のブルースで知られるティナリエンと同じです。モクターもティナリエン同様にロックとトゥアレグの伝統音楽を融合させたサウンドを奏でます。

 本作品はモクターにとって5枚目のアルバムです。これまでは同じアメリカのインディーズでもアフリカの音楽を専門にしていたサヘル・サウンズからリリースしていましたが、この作品はパンクやガレージ・ロックに強いマタドールからのリリースです。日本でも入手しやすい。

 タイトルは「アフリーク・ヴィクティム」です。♪アフリカはたくさんの犯罪の犠牲者だ。黙っていたら自分達は終わってしまう♪、重いテーマです。ニジェールを植民地化し、その過程で信じられない虐殺を繰り広げたフランスの所業が背景にあることは明らかです。

 7分を超えるこのタイトル・トラックでは、モクターの艶めかしいサイケデリックなエレキギターが堪能できます。空間を切り裂いていくという表現がぴったりするギターを弾きまくっています。リード・ボーカルもモクターですが、それ以上にギターが雄弁です。

 もちろんタイトル・トラックが中心ではありますが、ロック・バンドとしてのモクターしか知らない人にも全く違う顔があるんだということを知らせる意味もこめて、アコースティック・ギターを使った美しい歌の数々がアルバムには収録されています。

 公式サイトでは、このアルバムを「70年代半ばから80年代にかけて、ヴァン・ヘイレンがブラック・フラッグとブラック・ウフルーに出会ったようなサウンド」だと評しています。ギター・ヒーローがハードコア・パンクとハードコア・レゲエに出会ったサウンドは言い得て妙です。

 バンドはモクターに加え、長年の共演者でリズム・ギターを担当するアームドゥ・マダサネ、アガデスの結婚式バンドなどにいたドラマー、スレイマネ・イブラヒム、そしてニューヨークから通いのベーシスト、マイキー・コルタンで四人組です。

 コルタンはマネージャーやプロデューサーの役割も果たしています。本作品もモクター・バンドのツアーの合間を縫ってコルタンが録音してプロデュースしています。有能なマネージャーの存在があってこそ私の耳に届いたわけで、ありがたいことです。

 やはり、モクターのサイケ風味の強いギター・プレイが際立っています。そこにトゥアレグのリズムやメロディーがまじりあって彼らの個性が形作られています。真摯に重いメッセージを伝えるモクターのサウンドはロックの黄金時代を思い出させてくれるようです。

Afrique Victime / Mdou Moctar (2021 Matador)