「イマジノス」はブルー・オイスター・カルトを支えてきたサンディ・パールマンが学生時代から紡いできた一大叙事詩によるロック・オペラ作品です。バンドは前作以降空中分解してしまいましたから、唐突とも思えるリリースでありました。

 本作品の制作経緯は極めて複雑です。もともとパールマンはこの叙事詩をロック・オペラ化することを希望していましたが、賛同したバンド・メンバーはアルバート・ブーチャードただ一人だったそうです。アルバートはデビュー作直後から早くも曲を書き始めています。

 その後、「イマジノス」物語はその一部がブルー・オイスター・カルトのアルバムに散発的に取り入れられます。「オカルト宣言」に収録された「人間そっくり」や「天文学」などがそれにあたります。それを考えると後一押しが足りなかったということでしょうか。

 アルバートはその後も曲を書いており、人間関係のもつれでバンドを脱退して以降、ソロ・アルバムとして「イマジノス」の制作に取りかかります。さまざまなセッション・ミュージシャンが集められ、アルバムはほとんど完成するまでになっていました。

 しかし、アルバートとパールマンの願いもむなしく、レコード会社はアルバートのボーカルでは商業性がないとして発表を拒否します。パールマンはそれでも諦めません。その姿勢に心をうたれたバック・ダーマとエリック・ブルームもこれに協力していくことになります。

 パールマンはアルバート版を基に、ジョー・サトリアーニやマーク・ビーダーマンなどの大物ギタリストを彼らのアルバムに協力する見返りとして参加させるなどの色をつけ、さらには大胆にボーカル、ギター、キーボードなどを入れ替え、新しいアルバムを制作していきました。

 とうとうレコード会社側も折れて、「イマジノス」はブルー・オイスター・カルトの作品としてリリースされました。とはいえ、最終バージョンは40分近くも短くされていますし、曲順も物語の順番にはなっていないなど、100%思い通りにはならなかったようです。

 物語はラヴクラフトのクトゥルフ神話に色濃く影響を受けた壮大かつゴシック的なSFであり、ファンタジーです。BOCの英語版ウィキペディアにおける本作品のエントリーの長さが、いかにコアなファンを捉えて離さないかを物語っています。

 これは初期にやっておくべきでした。1960年代の終りから1970年代前半にかけてこれを制作しておけば、BOCの人気は世界的になっていたのではないでしょうか。1980年代の終り頃では本当に間が悪いと思います。返す返すも残念です。

 サウンドがこれまた充実しています。彼らのアルバムの中で最もヘヴィメタルであると言われることもあり、ポップに流れない重厚なロック・サウンドに大勢が名を連ねるギターが縦横無尽に跳ね回ります。アルバム全体を通して聴くしかない充実のアルバムです。

 ただし、ブルー・オイスター・カルトのオリジナル・メンバー全員の名前が見えますが、貢献度は濃淡が大きく、むしろ外部ミュージシャンの方が活躍していたりとBOCのアルバムとしては不思議な位置にあります。パールマンの悲願がかなったアルバムとするのが一番です。

Imaginos / Blue Öyster Cult (1988 Columbia)