レスター・ボウイによるECMにおけるセカンド・ソロ・アルバム「オール・ザ・マジック」です。今回は2枚組になっており、1枚目が「オール・ザ・マジック」でバンド演奏、2枚目が「ワン・アンド・オンリー」でボウイのソロ演奏です。不思議な2枚組です。

 ジャケット写真は1911年頃のバートンズヴィル・コルネット・バンドでボウイのおじさんが写っています。内ジャケにはお父さんが監督しているダンバー・ハイスクール・バンドの写真、さらにそれぞれ祖父母と母親のポートレート写真がジャケットを彩ります。

 ついでにボーカルで参加しているフォンテラ・バスはボウイ夫人、同じくデヴィッド・ピーストンはフォンテラの弟ですから、ますますファミリー・ヒストリー・アルバムっぽいです。そして、本作品は発表の前年1982年に亡くなった母親に捧げられています。

 「オール・ザ・マジック」は前作「グレート・プリテンダー」とメンバーが少し変わりました。ベースのフレッド・ウィリアムスとドラムのフィリップ・ウィルソン、ボーカルの二人は残留組で、新顔はサックスのアリ・ブラウンとピアノのアート・マシューズの二人です。

 ブラウンはボウイと同様AACMに参加していたシカゴ界隈のサックス奏者です。マシューズの方はアーチー・シェップなども参加した「イッツ・イージー・トゥ・リメンバー」で知られるピアニストです。ソニー・ジャパンにも公式ページがある不思議な人です。

 そんな面々によって奏でられる最初の曲は「フォー・ルイ」、ルイ・アームストロングに捧げられた曲で、ウィルソンが曲を書き、バスが詞を書いています。これがいかにもゆったりとした奥行きのある曲で、オーソドックスと前衛が絶妙にバランスして素晴らしいです。

 ボウイの短い「スペースヘッド」に続いて、アルバート・アイラーの曲にしては珍しい学生さんが練習しているような楽しい曲「ゴースト」へと続き、15分にわたるアルバムのハイライト「トランス・トラディショナル・スイート」へと移っていきます。ボウイの本領発揮です。

 1枚目の最後はお約束となったポピュラー・ヒット曲が登場します。今回は1956年にシャーリー&リーが録音し、数多くのアーティストにカバーされた「レット・ザ・グッド・タイムス・ロール」です。わいわいがやがやとお祭りのように盛り上がってアルバムが締まります。

 2枚目は完全ソロなのですが、変幻自在のトランペットが面白いです。最初と最後に出てくる「オーガニック・エコー」ではトランペットをピアノに突っ込んで吹いており、タイトル通りの自然な残響が緊張をはらんでいます。「サースティー?」は水の中で吹いているかのようです。

 「マイルス・デイヴィス・ミーツ・ドナルド・ダック」ではドナルド・ダックの声が出てきており、これもトランペットでしょう。クリスマスだったり、ダンスだったり、とにかくそれぞれがトランペットの可能性を広げる試みのようで、とても楽しいです。

 カップリングされると変な気もしますが、それぞれのアルバムはとても素晴らしいです。ボウイの前衛的に自由自在でかつ大衆的な猥雑さを感じさせる地に足がついたサウンドは他の追随を許しません。前衛的大衆は最強ではないでしょうか。

All The Magic / Lester Bowie (1983 ECM)

編成違い