パパイヤパラノイアのセカンド・アルバムです。デビュー作発表前にすでに伝説のアルタ前8000人動員ライヴで世間を騒がせていた彼女たちはその後も順調にライヴを重ねていきます。対バンもじゃがたら、町田町蔵、ブルーハーツなど錚々たる名前が並んでいます。

 そうしてきっかり1年後に本作が発表されました。タイトルは「WAR WAR WAR」ないしは「WAR3」です。バンドの中心人物石嶋由美子が戦争についていっぱい考えた末にできた曲がアルバム・タイトルとなっています。シリアスなバンドなんです。

 しかし、変な話があります。経緯はつまびらかではありませんが、本作品の2曲目には「A・X・I・A」なる曲が収録されています。この曲について石嶋は「いろいろ複雑な経緯がありまして、私の作詞になってしまいましたが、ちーがーうーよねー!」と憤っています。

 「今聴いても歌詞ムカムカする。なんだよコレ?」というこの曲は銀色夏生が斉藤由貴に歌ってほしいと持ち込んだ曲「AXIA~かなしいことり」で、シングル・カットされたわけではないのに根強い支持を集める曲です。上白石萌音がカバーしてまた人気再燃です。

 とはいえ斉藤由貴自身も嫌がったという二股女性を描いた歌詞で、そういう歌をガールズバンドに歌わせて喜ぶといういかにもサブカル趣味の宝島ゆかりのレーベルらしい所業です。嫌だったでしょうね。インディーズなのに不自由なことです。

 愚痴が長くなりました。この作品は前作に比べると格段にプロフェッショナル仕様になってきました。「WAR3を録る時には、みんな更にいろんなことが出来る様になっていた。腰が据わっている上に、艶が出た。」と石嶋が書く通りです。

 メンバーはギターにもう一人清原三保子が加入して5人組になりました。「三保ちゃんが入ったら、なんだかぐっと歌いやすくなった」のは石嶋ばかりではないようで、もともとのギタリストの「牧ちゃんは神様の様にギターが凄くな」りました。確かにこのギターは凄い。

 とりわけタイトル曲でのギターは凄いです。生きていても死んでいてもとにかく行進するしかないことに戦争のリアルを見た曲で、力強い行進ビートにがんがんギターが絡んでいく様は圧巻です。アルバム・タイトルになるのも当然の名曲です。

 メンバーが増えて演奏の幅が広がった上に、石嶋は「毎日シンセサイザーに張り付いて、アレンジをした。シンセサイザーの音作りをした」と言う通り、アレンジにこれまで以上に時間をかけるようになりました。その成果は各楽曲の完成度の高さに現れています。

 不可思議な雰囲気の「スイミング・イン・ザ・プール」、ゆったりとしたファンクの「太古のエメラルド」、アフリカの太鼓のようなパーカッションが映える「ジャングルの夕日」など捨て曲はありません。「AXIA」ですら超高速にアレンジしているので皮肉な感じでいいです。

 パパイヤパラノイアは本作品を最後にキャプテンを離れます。その後はメジャー・デビューを果たし、さらに幾多の変遷を経て、今でも石嶋を中心に活動中です。ガールズ・バンドは息が長い。覚悟のほどが違ったんでしょう。堂々たる本作を前に思わず正座してしまいます。

War War War / Papaya Paranoia (1986 Captain)