パパイヤパラノイアは日本のパンク/ニュー・ウェイブ・シーンを飾ったガールズ・バンドの一つです。本作品は彼女たちのデビュー作で、宝島社が設立した半ばメジャーなインディーズから発表されました。1985年12月のことです。

 彼女たちはねこ踊りなるバンドで1983年に初ライヴを行っており、その後パパイヤパラダイスに改名し、ヤマハが主催していた第28回POPCONの関東甲信越大会で優勝を飾っています。1984年のことです。わずか1年にしてこの成績は素晴らしいです。

 彼女たちは全国大会にも出場したものの、入賞はできませんでした。この時にグランプリに輝いたのはTOM★CATの「ふられ気分でロックンロール」です。この曲は世界歌謡祭でもグランプリをとりロングセラーになりました。こちらはいかにもPOPCONです。

 しかし、パパイヤとPOPCONの取り合わせはいかにも不思議です。POPCONの歴代グランプリといえば中島みゆき、円広志、ツイスト、クリスタルキング、あみん、小坂明子、アラジンなどなど。そんな大会で地方大会とはいえ優勝したというのが何とも消化に困る話です。

 その後、ヒカシューの巻上公一がプロデュースしたオムニバス・アルバム「都に雨の降る如く」でレコードデビュー、NHKで放映した「インディーズの襲来」に出演と順調に人気を獲得し、満を持して発表したファースト・アルバムがこの「もはやこれまで」です。

 パンク/ニュー・ウェイブ界隈では、POPCON、宝島というだけで胡散臭いものとして捉えられがちでした。それに、ミソジニー全開時代でしたからガールズ・バンドとなると色眼鏡で見られることになりました。「ガールズ・バンドにしては楽器が上手い」とか。

 そんな偏見にも負けず、彼女たちは華々しく活躍します。バンドの中心はベースとボーカルの石嶋由美子で、彼女は和製パティ・スミスの異名をとっていました。石嶋の場合は、歌詞もさることながら、その実験的な曲作りが魅力でしたから、ちょっと違う気がしますが。

 この石嶋に加えて、ドラムの岸田千明、ギターの牧絹子、キーボードの榎本晴美の四人がパパイヤパラノイアです。クレジットにはもう一人キーボードでミエヤという名前がありますが、誰なのでしょう?ちょくちょく石嶋の解説に出てくるみどりちゃん?

 POPCON優勝曲は「貴婦人の散歩」という曲で、「コンテストに出ようと思って、作った曲。どの演奏者もなかなか上手だな・・・と思われようと思って作った」そうで、可愛らしい曲ながら、その狙いはあやまたず、演奏はかっこいいです。POPCONらしくないですが。

 ストレートなパンク・スタイルの「ゴーゴンズ」から、きれいな歌声で歌いあげる音響に凝った「夏が終わる」、ハウ・ワウ・ワウを意識したという走るベースの「極楽コレクション」などなど一曲一曲が工夫を凝らしていて、それがどれもはまっています。

 タイトル曲の「もはやこれまで」は実在のホームレスのおばちゃんの叫びを歌っているそうです。「世間に訴えたいことでいっぱい」なおばちゃんは彼女たちにも通じるものがあるのでしょう。意外に窮屈なインディーズの世界を力強く生きた彼女たちが眩しいです。

Mohaya Koremade / Papaya Paranoia (1985 Captain)