解散後のビートルズはその作品管理が極めて行き届いています。現役時代は1960年代ですから、LPに対する意識がビートルズとレコード会社の間で大きな齟齬があり、特に英米でさまざまに入り乱れていましたから、その反省にたってのことでしょう。

 特にオリジナル・アルバムのCD化プロジェクトはとても丁寧でした。通常であればボーナス・トラックを入れて膨らましていくところですが、ビートルズの場合はアルバムに指一本触れないぞという決意、みんなでビートルズを大事に守ろうという強い意志を感じました。

 「パスト・マスターズ」は各アルバムにボートラを入れる代わりに制作されたアルバムで、オリジナル・アルバムに未収録の曲を網羅しています。13枚のオリジナル・アルバムにこの2枚を足せば、ビートルズが発表した作品は全て揃うことになります。

 凄くないですか。こんなバンドは他にありません。やはりビートルズは別格であるということを思い知らされた作品です。残念ながらヒット・チャートを駆け上がることはなく、全米チャートでは100位にも入っていませんが、結局はミリオン・セラーです。そこもまた凄い。

 本作品はその後半となるVol.2です。ここに収録されているのは「デイ・トリッパー」から「レット・イット・ビー」まで7枚のシングル盤の両面曲と世界野生動物基金のチャリティ・アルバムに収録された「アクロス・ザ・ユニバース」で計15曲です。

 この中でオリジナル・アルバムに収録されている「ゲット・バック」、「アクロス・ザ・ユニバース」、「レット・イット・ビー」はいずれもバージョン違いです。収録アルバム「レット・イット・ビー」はフィル・スペクター、こちらはジョージ・マーティンのプロデュースとなっています。

 後に「レット・イット・ビー~ネイキッド」が発表されますが、それとも違うバージョンです。とはいえ同じテイクを使っていたりするため、何だかややこしいです。「レット・イット・ビー」の制作経緯はかなり複雑ですからこういうことが起こります。

 ところでこの3曲以外はオリジナル・アルバム未収録だと言われても、何だか意外な気がします。というのも「オールディーズ」や「ヘイ・ジュード」などの編集盤が現役時代からありましたし、解散後には「レアリティーズ」などの発表がありましたから。

 しかし、後期のベスト盤かというとそれもまたしっくり来ません。普通のバンドであれば、シングル盤を時系列で並べたアルバムなのでそのままベスト盤なのですが、特に後期のビートルズはそれでは物足りない。すでに決定盤となる青盤がありましたし。

 そんなわけで、ビートルズのオリジナル・アルバムを全部買った人の便宜のために発表されたという性格が強く、それがチャート・アクションに反映したと思われます。それでも結果的にはミリオンです。アルバムを全部そろえた人がミリオンでは足りないということです。

 聴きどころは「アクロス・ザ・ユニバース」のファン女性二人によるフラワー・ムーヴメントを思わせるコーラス、「ユー・ノウ・マイ・ネーム」の自由万歳感でしょうか。後者にはストーンズのブライアン・ジョーンズによるサックスが使われています。かっこいいです。

Past Masters Volume Two / The Beatles (1988 Apple)