いきなりアフロ・ビートの帝王フェラ・クティの「レッツ・スタート」のカバーから始まるラテン・ファンクの知る人ぞ知る名盤です。かなりアフロによった粘っこいサウンドは、アルバム全体の方向性を決めており、唯一無二の存在感を放っています。

 本作品はベネズエラが誇る偉大なバンドリーダー、ポルフィリオ・アントニオ・ヒメーネス・ヌーニェスが率いるフィルポ・イ・ス・カリベスが1972年に発表したものです。タイトルは「パリラ・カリエンテ」、直訳すると灼熱のバーベキューとなるでしょうか。

 ジャケットにはいかにもラテンのアルバムらしく、ビキニの美女が登場していますけれども、これは翌年に隣国コロンビアで発売されたアルバムのジャケットです。オリジナルのベネズエラ盤は裸の女性が野外で大きな肉を焼いています。タイトルのまんまです。

 手元にあるCDはエル・リコ・サボールなるレストランに多い名前の怪しいヨーロッパのレーベルからの復刻です。ディスコグでは「アンオフィシャル」と書かれているので、ちょっと胸が痛みます。オリジナルLPは4万円以上もする幻作品なので怪しいですね。

 それはさておき、このアルバムは確かに最高です。カバー曲はフェラのみならず、サンタナもカバーしたティト・プエンテの「僕のリズムを聞いとくれ」や、意表をついたシカゴの「ハッピー・コウズ・アイム・ゴーイング・ホーム」などもあります。

 さらにニューヨークのロックン・ロール・バンドのウィキッド・レスターの曲やバハマ出身のエグズーマの曲も演奏しています。一見、脈絡のなさそうな5曲ですけれども、共通しているのは本作品発表の少し前にヒットした新しい曲だということです。

 「僕のリズムを聞いとくれ」は古い曲ですが、サンタナのカバーは1971年のことです。フェラの「レッツ・スタート」は何とベネズエラで1972年にシングル盤で発売されているのですね。そんなことでベネズエラではちょっと有名になっていたのだと思います。

 要するにこのアルバムは御大ポルフィ・ヒメネスが巷で流行りの曲を交えて作ってみましたという作品のようです。その軽い感じが炎のラテン・ファンクの迫力を増しているのが面白いです。スピード感が半端ないんですよね。かっこいいです。

 ヒメネスは1963年に自身の楽団を結成して以来、ラテン音楽の王道を歩みつつもファンクやポップに幅寄せしたサウンドで知られています。彼の楽団はさまざまな名前を名乗っており、ポルフィを逆さにしたフィルポ・イ・ス・カリベスは中でもファンク寄りのサウンドです。

 とにかく「レッツ・スタート」のカバー「コメンセロス」でがつんとやられます。アフロ・サルサ・ファンクの粘っこさはベネズエラとナイジェリアがゴンドワナ大陸では近くにあったことを思い出させます。アルバムはシカゴもサンタナもその粘っこさで一気にまくし立てていきます。

 この時代のラフな録音がとても似合う勢いのあるサウンドです。分厚いホーン、ファンキーなギターとオルガン、弾けるボーカルとどれをとっても素晴らしい。これは4万円を越える値段がつくのも分かります。一味違うハードなサルサ、ラテン・ファンクは凄いです。

Parrilla Caliente / Phirpo Y Sus Caribes (1972 Philips)