ブルー・オイスター・カルトの作品は総じて秀逸なカバー・アートに彩られていますが、この作品「呪われた炎」はその中でも傑作に上げられると思います。昔よく流行ったアルバム・ジャケットのアートブックには必ずといっていいほど取り上げられていた作品です。

 このジャケットを手掛けたのは長年ローリング・ストーン誌で働いていたというアーティスト、グレッグ・スコットです。よほどこの不気味なことこの上ないジャケットが好評だったとみえて、これからしばらくグレッグがBOCのジャケットに起用されます。

 「呪われた炎」はブルー・オイスター・カルトの8枚目のスタジオ・アルバムです。前作に引き続いてハード・ロックを得意とするマーティン・バーチがプロデューサーに起用され、基本的には前作を踏襲するハード・ロック・アルバムといえます。

 しかし、売れ線ポップとオカルト・ハード・ロックの間を揺れ動いてきたBOCも、何も二者択一ではないんだということに気が付いたのではないでしょうか。無理に一つの方向に狙いを定めるのではなく、ハード・ロック寄りながら両者が自然に共存しています。

 そのかいあって、本作品は全米24位を記録して、「タロットの呪い」の29位を超え、ブルー・オイスター・カルトの最高位に到達しました。キッスの「地獄」に相当するのはブルー・オイスター・カルトの「呪い」であったかと日本のレコード会社も気づいたことでしょう。

 本作からは「お前に焦がれて」のビルボードのロック・チャートでは1位となるヒットが出ました。時は1981年、この年はMTVが誕生した年として記憶されます。「お前に焦がれて」はこのMTVでヘビロテされて、ヒットした作品の一つです。

 同じくMVが制作された「ジョーン・クロフォード」の方は卑猥だとしてMTVで放送禁止になっています。これもまたMTVの歴史を作った話で、BOCは出来たばかりのMTVにとっては最高のお客さんの一つになったと思います。ちょっと意外です。

 「お前に焦がれて」は、「死神」しか知らないBOCファンには素直に受け入れられる曲です。バック・ダーマがボーカルをとっており、彼らのポップな側面をいかんなく発揮した名曲です。ただ、「死神」に比べるとロック寄りとなり、本作品にはまことに相応しいです。

 何曲かは米国のSF雑誌「ヘヴィ・メタル」によるアニメ・フィルムのサントラを意識して制作されましたが、実際に使われたのはサントラ用ではなかった「恐怖の薬物戦争」のみだったそうです。「ヘヴィ・メタル」なんていうタイトルの曲まで作ったのに面白いですね。

 「恐怖の薬物戦争」は前作同様作家のマイケル・ムーアコックが歌詞を手掛けています。やはりそこが採用のポイントでしょうか。歌詞といえば「呪われた炎」にはパティ・スミスがクレジットされています。この曲はパティ・スミス・グループっぽかったりします。

 「ドント・ターン・ユア・バック」などはTOTOのようにも聴こえますけれども、そうした多様な要素を内包しつつも全体にヘヴィでダークなサウンドでまとまっています。無理にまとめようとしない方が自然にまとまることもあることを示した傑作アルバムでした。

Fire of Unknown Origin / Blue Öyster Cult (1981 Columbia)