ルー・リードにはライヴ・アルバムの名作が多いです。1983年9月7日にヴェローナ、10日にローマにあるチルコ・マッシモ遺跡で行われたライヴを収録した「ライヴ・イン・イタリー」もなかなかの力作です。また、このツアーの音源は貴重でもあります。

 このツアーは1983年3月に発表した「レジェンダリー・ハーツ」をプロモートするために企画され、欧米をまわっています。私は何度かルー・リードのライヴを見ているのですが、てっきりこのツアーを目撃したものと思っていました。しかし、この時にはルーは来日していません。

 私が見たのは同じツアーのニューヨーク・ライヴを収録したビデオ、「ア・ナイト・ウィズ・ルー・リード」なのでした。この当時、レーザー・ディスクなるものが次世代メディアのように言われて華々しく宣伝されており、このライヴも私はLDで見ました。懐かしい。

 本作品は当初はドイツ、イギリス、日本でのみ発売され、1996年になって「ライヴ・イン・コンサート」と改題して米国でも再発されることになります。ルー・リードの人気の浮沈を感じさせる出来事です。1984年当時はルーはあまり人気がありませんでしたから。

 とはいえ、このライヴは充実しています。バンドは、ソロ史上最強のバンドとも言われるカルテットです。ギターには元リチャード・ヘル&ヴォイドイズのロバート・クイン、ベースにはフュージョン畑のフェルナンド・ソーンダース、ドラムには元マテリアルのフレッド・マーです。

 このカルテットで「レジェンダリー・ハーツ」が制作されました。それぞれがルーとは馴染み深いのですが、実はこの4人で作ったアルバムは「レジェンダリー・ハーツ」だけです。それだけ、このカルテットが揃った期間は短く、このアルバムの貴重さが分かるというものです。

 見事にシンプルな編成です。キーボードなどはまるで使わず、ギター2本にベース、ドラムだけでぐいぐいとロックを演奏していく様は大そう気持ちがよいです。その彼らが演奏するのはあたかもベスト・オブ・ルー・リードの趣きをもった代表曲が中心です。

 アルバムのプロモーションなのに「レジェンダリー・ハーツ」からは「ビトレイド」と「マーシャル・ロー」の2曲のみです。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代の曲7曲と「サテライト・オブ・ラヴ」、「ワイルド・サイドを歩け」、「死の舞踏」などのソロ・ヒットが中心です。

 珍しい選曲は「死の舞踏」の「キル・ユア・サン」、前前作「ブルー・マスク」からの「アヴェレージ・ガイ」と「ウィエヴス・オブ・フィアー」でしょう。ここでの「ウェイヴス・オブ・フィア」を私としてはアルバムの白眉としたいと思います。ソーンダースのベースがとにかくカッコいいです。

 ソーンダースとマーのリズム隊は実に強力です。メロディアスなベースとタイトなドラムは、クインの荒ぶるギターとかき鳴らすルーのギターと真っ向から対峙しており、充実ぶりが凄いです。ヴェルヴェッツ時代の名曲もまるで衣装をかえて生き返っています。

 ただ、私としては、近作からの曲をもっと聴きたかったなと思います。とはいえ、「スウィート・ジェーン」と「ロックンロール」は不可欠です。この2曲をどのようなアレンジで演奏するかがその時々のルー・リードを測る指標です。本作でも充実ぶりをみせてくれています。

Live In Italy / Lou Reed (1984 RCA)