英国のインダストリアル・レジェンド、キャバレー・ヴォルテールが1980年に発表したEP「スリー・マントラ」です。彼らは1978年にラフ・トレードと契約を交わしたばかりで、本作品がEPとしては3枚目、長いキャリアの初期の作品ということができます。

 EPとして扱われてはいるのですが、この作品は12インチのレコード盤で33回転ですから、通常のLP仕様です。それに全2曲ではあるものの、それぞれが20分以上ありますから、全体で40分、長さもしっかりとロング・プレイです。

 これには、タイトルが「スリー・マントラ」なのに、「ウェスタン・マントラ」と「イースタン・マントラ」の2曲、すなわち2つしかマントラが収録されていないことから、そのお詫びとして値段を安く抑えたのだという説があります。値段を安くするのは当時のインディーズの流行りでした。

 さらに伝説は続き、実はマントラは3つあるという説につながります。それは収録されている二つのマントラを同時に流すと聴こえてくるのだというものです。ちゃんとユーチューブに上げている人がいらっしゃいます。長さがほぼ同じで、リズムも似ているのでぴったりです。

 さらにこのEPは当初盤では両面のレーベルが全く同じだったので、どちらがA面でどちらがB面か分からないとか、裏ジャケットに記載された曲順が逆なので、どれがイースタンでどれがウェスタンか分かりにくいという仕掛けまで施されていました。

 まだまだレコードという商品に付喪神が付いていた頃のお話です。私はそこまではまっていませんが、それでもCDにこだわっているので、こういうちょっとした洒落のような行為をみると面倒くさいと思いながらもわくわくしてしまいます。

 閑話休題。話題が多いEPですが、そのサウンドもまたキャボスの画期となった作品です。CDでは1曲目が「ウェスタン・マントラ」です。20分にわたってリズム・ボックスによるリズムが反復し、それにキャボスの3人が控えめに彩りを添えていくスタイルです。

 インダストリアル・サウンドと言われるグレイな色彩のエレクトロニクスが延々と反復することでトランスをもたらすという後のクラブ・ミュージックの先駆けとなったサウンドです。このモノクロームなサウンドがキャボスのトレードマークになっていきます。

 2曲目は「イースタン・マントラ」です。こちらで延々と反復されていくのは声です。♪ヒューマン・リーグ♪と言っているらしいのですが、これが呪文のように反復されます。そして、そこにジェインというゲストによるエルサレムでのフィールド録音がコラージュされます。

 もちろんキャボスの3人によるギターやベース、シンセにテープやリズム・ボックスなどもサウンドに色を添えます。真面目な彼ららしくタイトル通りの東洋風サウンドを取り入れた実験的なサウンドで、これもまたキャボスの長いキャリアの礎となっていきました。

 キャバレー・ヴォルテールの作品の中でも人気が高いのが分かる耳に優しい力作です。ただし、せっかくマントラと題して、呪文を唱えるのですから、テープで反復するのは怠慢です。20分くらいですから唱え続けるべきだったのではないでしょうか。余計なお世話ですが。

Three Mantras / Cabaret Voltaire (1980 Rough Trade)