BiSHは2020年末にほぼ1年ぶりの有観客ライヴ「リブート・BiSH」を行いました。WOWOWで放映されたそのライヴ、幕が上がった瞬間は何とも言えず感動的でした。思わず涙ぐむ観客の女性の姿を見て、はからずももらい泣きしてしまいました。

 こういう感動はBiSHならではだと思いました。彼女たちは清掃員と呼ばれるファンとの距離の切り結び方がとてもエモーショナルです。ライヴとともに成長してきた彼女たちと清掃員の思いが一気に爆発しました。まさに「楽器を持たないパンクバンド」です。

 本作品は「破壊なくして創造なし」をキャッチフレーズにしたメジャー4作目のスタジオ・アルバムです。フルアルバムとしては実に2年1か月ぶりのことですが、この間もBiSHはあの手この手で精力的に活動していましたから、さほどお久しぶり感はありません。

 いつものように発売形態が凄いことになっています。まずは初回生産限定盤としてアンプラグド・ライヴを収録したブルーレイとフォトブックをカップリングした「なんじゃこりゃ~箱仕様」、同じライヴをDVDとしたカップリング「DVD盤」、通常の「CD盤」、そして「破壊盤」。

 私は「破壊盤」を選びました。渋い。これはCDだけなのですが、パッケージのジュエル・ケースにひびが入っているものです。ケースにはメンバー1名の直筆サインが入っています。私の場合はセントチヒロ・チッチのサインでした。嬉しいです。手が込んでいますね。

 アルバムはとても充実しています。大きな冒険があるというわけではなく、従来のBiSHの延長線上に素敵な曲のストックが14曲も増えたという高揚感と充実感を味わえるアルバムです。聴けば聴くほどはまっていきます。カッコいいです。

 初期の頃はアイナ・ジ・エンドとチッチにボーカルを頼っていたBiSHですが、ここのところ大きな役割を果たすようになってきたアユニ・Dに加え、ハシヤスメ・アツコの台頭も目覚ましいですし、飛び道具リンリンの成長も嬉しいところです。

 曲はこれまで同様すべて松隈ケンタが書いており、トラックは彼が率いるスクランブルズの面々がデザインしています。作詞は松隈と渡辺淳之介が8曲、アイナとアユニが2曲ずつ、チッチとモモコグミカンパニーが1曲ずつという構成です。

 タイアップ曲が多いことからも分かる通り、渡辺の書く詞は刺激的ながらも分かりやすいです。その意味ではひっかかる歌詞はメンバーの方が多い。チッチによる「狂う狂う」のリフとか、アユニの♪道玄坂のワンルームから♪とか耳に残ってしょうがありません。

 本作品にはさまざまな曲調の佳曲が並んでいて、それぞれがとても魅力的です。6人それぞれがアーティストとしての自覚をもって考えながら本作に臨んでいることもよく分かります。とにかく聴いていると元気になります。ついつい通して聴いてしまうんですよね。

 米国などでもロックがヒットチャートから消えて久しくなりました。しかし、ロックの申し子たるBiSHがその穴を埋めてくれています。なんたってアンプラグド・ライヴはニルヴァーナへのオマージュなんですから。その精神は本作品にも遺憾なく発揮されています。

Going To Destruction / BiSH (2021 Wack)