「オカルト宣言」という邦題にまったく似つかわしくない、スタイリッシュなジャケットです。手掛けたのは前作までのゴーリックではなく、ロン・レッサーです。彼は後に映画のポスターや大西部の歴史画、マリリン・モンローやバットマンなどのイラストで大成功します。

 ジャケットに描かれているのは本作品収録の「メッサーシュミットME262」にちなんで、ME262号を背景にポーズを決めるブルー・オイスター・カルトの面々です。色遣いが何ともいえずハイセンスで、アートの都ニューヨークを感じます。

 本作品はブルー・オイスター・カルトの三作目です。一般にBOCのスタイルが完成した作品として知られ、その完成度の高さで人気の高い名盤です。そういう場合にままありがちなことですが、本来のBOCはこの作品までだという人も多数いらっしゃいます。

 この作品では全8曲の歌詞をすべてメンバーではなく、プロデューサーのサンディ・パールマンと彼の学生時代からのコンビ、リチャード・メルツァー、そしてバンドの友、パティ・スミスが書いています。これまでもほとんどが彼らですが、全部というのは初めてのことです。

 その彼らが書いている歌詞は、今回は「ナチス・ドイツが地球空洞説を信じ、内部の王国とコンタクトを取ろうとしたという歴史的事実を基に」書いており、アルバム全体がコンセプト・アルバムになっているということです。二重三重に面白いです。

 この歴史的事実は、私と年代を同じくする少年漫画雑誌愛読者ならば常識です。普段は雲で隠されていますが、宇宙からみれば極点には巨大な穴が開いていますし、その穴を頻繁に出入りするのは地底人の乗物であるUFOです。当然ご存じですよね?

 そんなお話なのに「オカルト宣言」とは非常識な邦題をつけたものです。加えて、サウンドの方もそれほどオカルト的ではありません。米国のブラック・サバスとして売り出そうとしたのは分かりますが、過剰にその意図を忖度したタイトルだと思います。

 そんなことはさておき、このアルバムはやはりとてもカッコいいです。発売の翌年には英国のメロディー・メイカー誌の読者投票で「トップ・ロック・アルバム・オブ・オール・タイム」に選ばれています。セールスはさておき、この年代の英国人にはとりわけ強い印象を残しています。

 とりわけ高く評価されているのは「地獄の炎」から「天文学」へと至る終盤の至福です。ここにBOCの魅力が詰まっています。ギター、ピアノ、シンセ、ボーカル、どれをとっても聴きどころ満載ですし、とにかく曲が素晴らしい。哀愁溢れる渾身のドラマチックな大作です。

 パティ・スミス作の「邪悪の歴史」から始まる前半もカッコいいです。ボートラでカバーしているステッペン・ウルフと同じ方向を向いており、1970年代の米国ハード・ロックの一つの完成形だと思います。こんなにかっこよかったかと驚きと共に彼らを再認識させられました。

 アルバムはついに全米53位にまで上り、後にゴールドディスクにも輝きます。遅すぎたくらいでしょう。バンドは精力的にライブをこなし、どんどん人気のすそ野を広げていきます。ここまで完成すれば、次はライブ盤の出番ということになるのも当然です。

Secret Treaties / Blue Öyster Cult (1974 Columbia)