ブルー・オイスター・カルトのデビュー作は173位とはいえチャート入りしていますし、何よりも評論家筋の受けはよく、まずまずの成功を収めました。この成功を確たるものとすべく、バンドは精力的にツアーをこなし、彼らの知名度はどんどんあがっていきます。

 一緒にツアーをまわったのはハード&オカルトのアリス・クーパー、サイケデリックの大物バーズ、ジョン・マクラフリンの超絶技巧によるフュージョン・サウンドのマハヴィシュヌ・オーケストラだといいますから面白いです。なかなかの対バンです。

 レーベル側とマネージャーのサンディ・パールマンにはアメリカ版ブラック・サバスとして売り出すという明確な意思があったようで、セカンド・アルバムも時を置かずに制作されました。それが本作品「暴虐と変異」です。おどろおどろしい邦題ですが、ほぼ原題の直訳です。

 アルバムは「赤と黒」で始まります。この曲はデビュー作にあった「赤と黒(お前は奴隷さ)」をリメイクしたものです。この2曲の違いがデビュー作と本作品の違いを象徴しています。前作ではゆったりとしたサイケデリック風味でしたが、こちらはドライヴするハード・ロックです。

 前作とは録音がまるで違っているように聴こえます。とりわけ平板だったアルバートとジョーのブーチャード兄弟によるリズム隊の音が立体的になり、迫力を増しています。ギターやボーカルのサウンドもくっきりとしてきており、ハード・ロック仕様が進んできました。

 アルバムは「赤と黒」で始まるA面を「ザ・ブラック」、「ベイビー・アイス・ドッグ」で始まるB面を「ザ・レッド」として、よりハード・ロックな側面とねっとりしたサイケデリックな側面の差異を際立たせています。いろいろと戦略を考えるバンドでありました。

 その「ベイビー・アイス・ドッグ」は歌詞をパティ・スミスが書いています。パティはこの頃はまだアンダーグラウンドの詩人としてニューヨークで活動しており、BOCのアラン・レイニアと一緒に暮らしていたりしていました。パティとBOCの交流はこの後も続いていきます。

 ブルー・オイスター・カルトは5人組ですけれども、たとえば本作ではボーカルが4人、ギターが3人、キーボードがシンセを入れて3人とそれぞれが複数のパートを分け合う珍しい仕様のバンドです。特にギターはステージでは4人が同時に演奏して見せ場を作ります。

 この複数楽器制がBOCサウンドの大きな特徴でもあります。そのため、ギターやキーボードが一筋縄ではいかない多彩な表情をみせます。より生々しく、よりハードなサウンドになってきた本作ではそれがますます際立ってきました。

 BOCはキャッチーなリフをそなえたメロディアスなハード・ロックでありながら、クールな表情を失いません。それでいて暴虐と変異を歌い上げていくのですから、その姿勢がかっこいいです。計算された戦略をサウンドが越えていくさまをみる思いです。

 この作品を語る場合、ジャケットを無視することはできません。デビュー作同様にビル・ゴーリックがデザインしたイラストは彼らのクールなサウンドと不可分です。ビルはBOCの周辺にいた人ですがほとんどその事績が知られていない謎の男です。かっこいいですね。

Tyranny And Mutation / Blue Öyster Cult (1973 Columbia)