「メンバー交代を経てロック色を強めたジャックスの69年発表の第2作」と紹介されている「ジャックスの奇蹟」です。しかし、このアルバムが発表される頃にはジャックスはすでに解散してしまっており、そのためバンド名は「ジャックス・スーパー・セッション」と書かれています。

 ファースト・アルバム「ジャックスの世界」が発表される頃には、すでにギタリストの水橋春夫がジャックスを脱退することが決まってしまい、アルバム発表後に角田ひろが加入します。あの「メリー・ジェーン」のつのだ☆ひろです。

 ギタリストの代わりにドラマーというのも珍しいですが、それまでドラムを担当していた木田高介がサックス、フルート、ヴィブラフォンを担当することになり、ますます孤高のバンドっぽくなっていきました。リード・ギタリスト不在ですから。

 このメンバー構成による楽曲は本作品のB面に並べられています。ここには名曲「ロール・オーヴァー・ゆらの助」や「敵は遠くに」を始め、ジャックスといえばこの人、早川義夫が歌う世界が堪能できる楽曲5曲が並んでいます。

 早川はギターも弾いていますけれども、サイド・ギターとクレジットしている通り、リードをとっているわけではありません。ギターが来そうなパートには木田によるフルートやヴィブラフォンが配置されており、このジャックスはなかなかの曲者ぶりを発揮しています。

 一方、A面では「堕天使ロック」のみが新生ジャックスのメンバーによる楽曲で、それ以外の曲にはそもそも早川が参加していません。早川の不在を埋めるかのように、残りのメンバーと3人のミュージシャンによる「スーパーセッション」が繰り広げられています。
 
 参加している3人とは「もとフォークルで、その後ユニークな音楽活動を展開している加藤和彦、ジャックスのリード・ギター、ヴォーカル(時計をとめて)で活躍した水橋春夫、ジャックスの仲間で東大生の藤田秀雄」です。加藤和彦の参加が目をひきますね。

 水橋はリード・ギター、加藤はサイド・ギター、藤田はピアノとエレクトーンを担当しており、5曲すべてに参加しています。ジャックス組は、ベースの谷野ひとしが全曲に参加しているものの、ボーカルとドラムを分け合う角田と木田は全曲に参加しているわけではありません。

 そもそも角田の加入でジャックスはロック色が増している上に、さらには早川が不在となっているA面のスーパーセッションのサウンドは、ファースト・アルバムのジャックスを想像していると戸惑いを覚えることになります。後のつのだ☆ひろにつながるサウンドです。

 この作品は発表前にバンドが解散してしまったため、ファースト・アルバムのアウトテイクなどを寄せ集めて作られたとされることが多いですが、各楽曲の録音日、それに新加入の角田が全曲に参加していますからそちらを信じると事実に反することになります。

 時系列ではB面が先で「堕天使ロック」を除くA面が後となります。B面までが従来のジャックス、A面はまさにジャックス・スーパー・セッションです。その時間の流れをみつめることで「フィルモアの奇蹟」ならぬ「ジャックスの奇蹟」にしみじみと思いをはせてみましょう。

Jacks Super Session / Jacks Super Session (1969 Express)