アメリカという国はことキリスト教の話になると信じられないくらい原理主義がはびこっています。聖書に書いてあることを文字通り信じている人が無視できないくらいいるわけですから、教育もままならないでしょうし、さまざまな政策も思わぬ反対にあうことになります。

 エレクトリック・ライト・オーケストラ、ELOも前作「エルドラド」の中に、逆再生するとサタンを賛美するメッセージが聴こえてくるとキリスト教原理主義者の団体に訴えられています。さほど大事にはならなかったようですが、彼らとしては驚いたことでしょう。

 いかにも悪魔を礼賛していそうなバンドならばヘヴィメタル勢の中にいくらでもいるでしょうに、あろうことかファミリー・エンターテインメントに近い、健全なELOがやり玉に上がるとは思いもよりませんでしたが、むしろこのお茶の間との近さが災いをもたらしたのでしょう。

 本作品はELOの5作目のアルバム「フェイス・ザ・ミュージック」です。冒頭の一曲目にはその訴訟を逆手にとって、逆再生メッセージが込められています。いかにもイギリス人っぽいアイロニーの現れです。意外にこれが気に入ったらしく他にも逆再生が出てきます。

 前作以降、ベースのマイク・デ・アルバカーキ、チェロのマイク・エドワーズが脱退し、それぞれケリー・グロウカットとメルヴィン・ゲイルが新たに加入しました。絶対的なリーダー、ジェフ・リンとザ・ムーヴからの生き残り、ベヴ・ベヴァンはもちろん健在です。

 グロウカットはボーカルも達者で、曲によってはリード・ボーカルをとっています。これまでジェフが一人で歌っていましたから、バンドのサウンドに幅をもたらすことになりました。何でも一人でやってしまうジェフがボーカルを一部任せたことはよかったのではないでしょうか。

 一方で、ストリングスの扱いはいよいよバンドからオーケストラに近づいていくことになりました。三人の弦楽器奏者はソロをとったりして、一般のオーケストラのメンバーからは差別化が図られていますが、どちらかといえばオーケストラの一員っぽくなってきています。

 ELOは初期三作の何となくプログレ路線から、前作の一大シンフォニーを経て、本作ではポップなバンドとしての性格を強調するようになりました。もちろん彼らの特徴であるヘビーなオーケストレーションは健在ですが、あまりクラシック的ではなくなってきました。

 こうしたオーケストラの使い方は、何でもストリングスだった歌謡曲を聴いて育った私などからすれば何の違和感もありません。先鋭的でも変わっているわけでもなく、むしろ当たり前です。何といいますか、何の引っ掛かりもなく、ELOの作り出すサウンドに浸ることができます。

 そのサウンドはバイオリンというよりもフィドルと言った方がよいカントリー風の「ダウン・ホーム・タウン」やディスコっぽい「イーヴィル・ウーマン」、オーケストラ全開の曲、シンセがフルに活躍する曲など幅広い曲調で、それをしっかりとポップなロックにまとめているのが凄いです。

 ますますビートルズになってきました。本人たちも自覚していましたし、ファンもこれを求めていたわけで、幸せな展開です。なかなかビートルズを誇りとする母国イギリスでブレイクできませんけれども、いよいよその日は間近に迫ってきました。ELOの天下への道はあと少し。

Face The Music / Electric Light Orchestra (1975 Jet)