映画「ムカデ人間」では、ムカデのように人間が数珠つなぎにされます。それも肛門と口を接合するという身の毛もよだつ恐ろしい形です。よくもまあそんな話を思いつくものですが、さらにそれを実写映画にしてしまうのですから開いた口が塞がりません。

 2009年に公開され、あまりのおぞましい内容に日本での公開が見送られそうになりましたが、熱いファンの声にこたえて2011年に本邦でも公開されました。ムカデ人間の先頭は日本人俳優が演じていたりして、日本にもゆかりがある映画です。

 トム・シックス監督はオランダ人で、この映画の成功によって一躍時の人になりました。続編、続々編も制作されていますからよほど評判がよかったのでしょう。最初は3人だったものが、続々編では500人を繋げてさらに荒唐無稽度を増しています。

 私はホラー映画は基本的に苦手な上に、肉体改造ものとなるとどうにもこうにも見ていられません。ただし、興味はあるんですよね。そこが悲しいところです。気になって仕方がないけれども、見られない。そんな私にはサウンドトラックが最適です。

 この作品は「ムカデ人間」のオリジナル・サウンドトラックです。ポップなイラストのジャケットが恐ろしいです。ゲートフォールドを開くと実際のムカデ人間の絵画風写真が出てきます。それほど怖くはありませんが、想像すると胃のあたりから込み上げてくるものがあります。

 サントラを制作しているのはオーストラリア出身のパトリック・サヴェージとフランス出身のオレグ・スパイズのコンビ、サヴェージ&スパイズです。この二人のコンビも最も有名な作品はこの「ムカデ人間」だといいますから、これが出世作ですね。

 サヴェージはメルボルンとロンドンで正規の音楽教育を受けており、英国のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団で首席バイオリニストを務めていたこともあるそうです。その彼がスパイズと出会って、デュオで映画音楽を手掛けるようになるのですから人生面白いです。

 スパイズはエレクトロニック・ミュージックを手掛けるアーティストであり、「マトリックス」のサントラで知られる英国のジューノ・リアクターの縁で日本を頻繁に訪れ、三池崇史監督の「殺し屋1」のオーディオヴィジュアル・リミックスを手掛けるなどしています。

 二人が出会ったのは2007年のことで、そこから二人の活動が始まります。その代表作となる本作品は、ホラー映画のサントラの金字塔とでもいうべき素晴らしい作品です。映画を見ていない私ですら戦慄を覚えます。ドローンをここまで恐ろしく使えるのは凄いです。

 全編エレクトロニクスなのですが、全10曲のうちの6曲目だけがピアノ演奏です。それもピアノ・レッスンのような可愛らしいピアノ。そのタイトルが「ムカデ人間の訓練」だというのですからさらに恐ろしいです。これが素晴らしいアクセントになっています。

 インダストリアル系のドローン主体のエレクトロニクス・ミュージックなのですが、背後に蠢く気配が絶妙です。聴いているといたたまれなくなってしまいます。サウンドだけでここまで表現できるとは凄いことです。やはり映画を見た方がよいでしょうか。

Human Centipede / Patrick Savage & Holeg Spies (2021 AMS)



映画の予告編はこちら。