1970年代、世界は2度にわたる石油ショックに翻弄されました。ちょうど二つの危機の合間となる1975年に北海油田は生産を開始しました。本来ならばOPECの独占を回避する出来事として歓迎一色になってもおかしくありませんでしたが、事態はそう単純ではありません。

 石油ショックは地球の未来は必ずしも薔薇色ではないことを知らしめる効果があり、人々の環境問題への意識も変えてしまいました。北海油田は海底油田だけにその開発によって引き起こされる環境問題への人々の懸念も高かったんです。

 ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンは1977年にスコットランドのスカイ島に広大な土地を買っています。スカイ島は大西洋側ですが、スコットランドの環境は北海油田に影響を最も強く受けていますし、その分、また経済的な恩恵も大きいという複雑な位置にありました。

 そんな状況で制作されたジェスロ・タルのアルバムが「ストームウォッチ~北海油田の謎」です。「北海油田」なるそのものずばりの曲もありますし、裏ジャケットには巨大化した白熊が氷の上にならぶ石油コンビナートを襲っている絵が描かれています。

 ジェスロ・タル流のコンセプト・アルバムではありませんけれども、環境問題などの重いテーマを扱っており、サウンドもそれに応じてヘビーなロックが復活してきました。1970年代の黄金期の最後を飾るに相応しい重々しいアルバムです。

 本作品は一般にタルの「フォークロック三部作」の最後を飾る作品と言われています。私はこのアルバムをリアルタイムで買ったのですが、その当時、そんなことを言われていなかったのではないかと思います。前二作に比べるとトラッド風味はかなり薄いですから。

 ただし、確かにスカイ島の石器時代の遺跡をタイトルにした「ダン・リンギル」から「フライング・ダッチマン」への流れはトラッド的です。続くデヴィッド・パーマー作曲の物悲しくも美しいインストゥルメンタル曲「エレジー」も加えてもよいかもしれません。

 しかし、アルバムの冒頭を飾る「北海油田」からして、いきなり力強いフルートによる特徴的なメロディーから始まります。B面最初の「サムシング・オン・ザ・ムーヴ」と並んで、アンダーソンのフルートが大活躍する名曲で、こんなフルートは久しぶりな気がしてしまいます。

 重苦しいのはもう一つ理由があります。ベースのジョン・グラスコックが病に倒れており、本作品への参加はわずかに3曲のみ、さらに本作発表の2か月後に亡くなってしまいます。代わりにアンダーソンがベースを弾いていますが、ジョンの不在を感じずにはいられません。

 本作品は英国で27位、米国でも22位とそこそこの成績を残しています。ただ、私は実はジェスロ・タルのアルバムの中で本作品が一番好きです。フルート全開ですし、アルバムを通して、荒涼とした海風が吹き付けるスコットランドを感じます。素晴らしい。

 なお、アンダーソンがスカイ島に土地を買って始めたのは鮭の養殖と加工です。ミュージシャンの副業としてはまったくもって異質ですけれども、ロック界にあってどこか異質な雰囲気を漂わせているアンダーソンなら納得のエピソードです。

Stormwatch / Jethro Tull (1979 Chrysalis)