ジャケットには森でキャンプをするイアン・アンダーソンが描かれています。今流行りのソロキャンプのようですが、さすがはイギリスです。焚火の反対側には愛犬と共に仕留めたと思われる獲物の鳥が調理を待っています。ゆるキャンではありません。

 明らかに写真ですけれども、絵だとクレジットされています。確かに少し手が加えられていますけれども、アンダーソンの遊び心と思われるとのことです。どちらでも良いのですが、このジャケットはなかなか素晴らしいです。いかにもジェスロ・タルらしいです。森の人。

 前作から10か月の間隔で発表されたジェスロ・タルの10作目のスタジオ・アルバムです。わずか10か月ですが、その間、英国ではパンクが勃興し、プログレ受難の時代を迎えました。「ロックンロールにゃ老」が洒落で済まなくなってしまいました。

 しかし、そんな時でも我が道を進むジェスロ・タルです。本作品はトラディショナルなフォークに接近しており、次作及び次々作を含めて後に「フォーク・ロック三部作」とされるサウンドを展開しました。時勢に媚びない姿勢がとても立派です。

 アンダーソンは1974年にブリティッシュ・トラッドのスティーライ・スパンのアルバムをプロデュースしており、そのフォーク・ロック・シーンへの傾倒ぶりが強まっていました。これまでのジェスロ・タルのサウンドの傾向からもごく自然に思われるサウンドの変化です。

 この作品では、ギタリストのマーティン・バーがリュートを弾いていたり、ドラマーのバリモア・バーロウがヨーロッパ中世の太鼓であるネイカーやターボーなどの伝統楽器を使っていたり、伝統楽器とロック・ドラムやギターとの新旧激突が企図されました。

 とはいえ、サウンドががらりと変化したというわけではなく、前作までのサウンドの延長上にあります。恐らくレコード屋さんでもフォーク・ロックと分類するのではなく、普通にプログレッシブ・ロックの棚に陳列していたものと思います。「フォーク的な飾り付け」です。

 本作品の一曲「緑のジャック」はアンダーソンによる一人多重録音曲です。ついに来るべき日がやってきたのかという感じもしますが、本作品ではこれまで以上にバーやデヴィッド・パーマーが曲作りに参加していたりもして、バランスがとれているといえばとれています。

 なお、この作品からジェスロ・タルにはストリングスを担当していたパーマーが正式メンバーとしてクレジットされるようになりました。パーマーもフルタイムのメンバーとなって、脚光を浴びたかったようです。パーマーの正式参加もサウンドに少し影響しているのでしょう。

 本作品は前作よりも好意的に受け止められ、パンクに揺れる英国チャートでも先行シングル「至高の鐘」が28位となる彼らにしては久しぶりのヒットとなり、アルバムも13位まであがりました。米国でも8位を記録しています。

 また、この作品はアンダーソンを始め、メンバー各位にとっての自信作になっています。ジェスロ・タルには英国の森がよく似合うことをメンバーもファンも再確認したということでしょう。これまでのタル・サウンドが収まるべきところに収まったという感じがします。

Songs From The Wood / Jethro Tull (1977 Chrysalis)