「ロックンロールにゃ老(とし)だけど死ぬにはチョイと若すぎる」とは頑張った邦題です。原題の直訳ですけれども、「老」と書いて「とし」と読ませたり、「チョイと」とカタカナを交えたり、本作品の雰囲気に寄り添ったタイトルはなかなかのものです。

 ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンは飛行機の中で前日のライヴが上手くいかなかったと反省し、「ロックンロールにゃ老」かとしみじみしていたところに、飛行機が大きく揺れてしまい、いや「死ぬにはチョイと若すぎる」と思ったのだそうです。それがこの曲の出自です。

 アンダーソンはこの時27歳、70歳を越えた今でも現役ですけれども、この当時は30歳がロックの限界だと言われていましたから、深刻な自己省察だったことでしょう。ともあれ渾身の名曲は長らくジェスロ・タルのライヴの定番になりました。

 ジェスロ・タルは前作の後、ベースのジョン・ハモンドが脱退してしまいます。絵画のキャリアを追求するためです。ブラックプール時代の仲間の一人を失ったタルには、ツアーを共にしていたバンドでちょうど解散したカルメンからジョン・グラスコックが加入しました。

 新生なったバンドは1975年11月にブリュッセルで新作のレコーディングに入ります。この時に「ロックンロールにゃ老~」ももちろん録音されています。録音は12月にスイスのモンタレーへと続いていき、アルバム一枚分のマテリアルはそろったものと思われます。

 しかし、アンダーソンはタイトル曲の最終ミックスの段階で、この曲を中心にすえたミュージカルを制作することを思いついてしまいます。そのモデルにうってつけのレイ・ロマスなる人物が登場したことで俄然話が膨らんでいきます。

 結局、構想は盛り上がったものの、あっというまに頓挫してしまいました。しかし、そこはミュージシャンです。1976年1月にミュージカル用の楽曲が録音されていました。場所は前作同様にモナコのラジオ・モンテカルロでした。

 本作品はそれら両方の音源をまとめた作品です。そのため、コンセプト・アルバムであるようなないような、なんともいいがたいアルバムになっています。ミュージカルっぽいのは、ストリングス・アレンジを担ったデヴィッド・パーマーがさらに活躍しているからでもあります。

 アルバムは不滅のタイトル曲を中心に比較的短めの楽曲が並びます。アコースティックな感触が強まっており、落ち着いたジェスロ・タルのサウンドがかっこいいです。チャート的には全米14位、全英25位とこっちも落ち着いてしまったのは残念です。

 ところで私の持っているものは、タルの40周年を記念してスティーヴン・ウィルソンがリミックスしたバージョンです。なんとオリジナルのテープの一部が見つからなかったことから、1976年3月にテレビ番組のために再録音したものを使ったとのことです。

 何でも口パクをするために音楽労働組合の規定で既発レコードが使えなかったための措置なんだそうです。オリジナルも5曲ボートラ収録されており、比べてみると少し違います。この当時のジェスロ・タルの充実ぶりを示しているようで面白い話です。

Too Old To Rock 'n' Roll : Too Young To Die / Jethro Tull (1976 Chrysalis)