伝説のノーウィエヴ・バンド、ティーネイジ・ジーザス&ザ・ジャークスを率いた女王リディア・ランチは、ジャークスを解散させると新しいバンドを結成しました。それがこのエイト・アイド・スパイです。最初のライヴは1979年10月のことだと言われています。

 ジャークスからやってきたのはドラムのジム・スクラヴノスです。ジャークスではベーシストでしたが、ここから、より正確にはジャークス時代のリディアのサイド・プロジェクトであるベイルート・キャンプからドラマーに転向し、以降ソニック・ユースを始め大活躍します。

 ベースにはこれまた伝説のノーウィエヴ・バンド、コントーションズにいたジョージ・スコット3世、サックスとギターには後にB-52ズに加入するパット・アーウィン、もう一人ギターにはマイケル・ポームガーデンという若者を加えて、全部で5人組です。

 ジョージは高校時代の同級生にピーウィー・ハーマンがいるという何とも脱力するエピソードの持ち主ですが、ブライアン・イーノがプロデュースした「ノー・ニュー・ヨーク」所収のコントーションズの4曲で印象的なベースを弾いています。

 やがて彼はコントーションズを去り、ジョン・ケイルとライヴを行うなどしていました。その後、エイト・アイド・スパイに加入しましたが、1980年8月にヘロインのオーバードーズで死んでしまいました。エイト・アイド・スパイはこの後、ほどなくして消滅してしまいます。

 エイト・アイド・スパイのレコード・デビューはバンド解散後の1981年10月のことです。セルフ・タイトルのアルバムはスロッビング・グリッスルの作品で知られるロンドンのフェティッシュ・レコードから発表されました。バンド存続中に出ていないのが驚きです。

 アルバムは5曲のスタジオ録音と8曲のライヴで構成されていましたが、パットによれば4曲はジョージの死後に録音されており、そこではパットがベースを担当しているそうです。パットはこのバンドはジョージが引っ張っており、代わりはきかないんだと述懐しています。

 このアルバムはフェティッシュから発表されたデビュー作そのままではなくて、1997年に米国のアタヴィスティックから発表された編集盤です。ただ、彼らの録音音源は限られているので、ほとんどデビュー盤の再発とみなされています。そりゃそうですね。

 エイト・アイド・スパイの最大の魅力はもちろんリディアの絶叫系ボーカルですけれども、それに勝るとも劣らないのがジョージのゴリゴリ・ベースです。重いサウンドではなくて、まるでギター・ソロを聴いているかのようなベースのサウンド。これがいいです。

 ジムのドラムとジョージのベースがバンドを追い立てるようなグルーヴを醸し、パットとマイケルがギターをかき鳴らすというまさにノーウェイヴの典型的なサウンドです。リディアの佇まいといい、先鋭的なニューヨークのファンキーなパンク・サウンドがここに極まっています。

 ボ・ディドリーやCCRのカバーなんていう意表をついた楽曲も器用にこなしています。意外といっては失礼ですが、このバンドの演奏力は大したものです。ただ、残念なのはオリジナルには入っていたジェファーソン・エアプレインの「ホワイト・ラビット」が入っていないことです。

8 Eyed Spy / 8 Eyed Spy (1981 Fetish)