ワープ傘下の英国のレーベル、ディサイプルズから突然発表されたフューのカセット・テープ作品「ヴァーティカル・ジャミング」です。バンドキャンプでは早々に売り切れており、日本でもディスク・ユニオンでのみ超限定数量でのみ発売されました。

 ディスクユニオンをうろうろしていますと、本作品が「限定再入荷!」していたのを見つけ、思わず買ってしまいました。カセット・テープ作品を買うのはそれこそ何十年ぶりでしょうか。LPに続きカセット・テープも復権していると聞いて嬉しい限りです。

 この作品は同レーベルから発表されることが予定されていた「ヴァーティゴKO」がコロナ禍で発表が遅れたことから急きょ発売されたものです。中身は新作ではなく、2016年のニュー・ワールド・ツアーの会場限定で販売されていた「ジャミング」です。

 カセットを購入してからこのことを知って大変驚きました。「ジャミング」、持ってますから。えーっと思ったのですが、ボーナス・トラックとしてデジタル・ダウンロード・オンリーながら「ドローン」という曲がつけられていたのでまあ良しとすることとしました。

 ところが、さらに追い打ちをかけるように、予約して購入した「ヴァーティゴKO」の日本限定盤にはボートラも加えた「ヴァーティカル・ジャミング」がカップリングCDとして付けられていたではありませんか。結局、「ジャミング」を三枚保有していることになってしまいました。

 限定発売されたものにはこういうことがまま起こります。それだけフューの人気が根強くて長続きしていることの証左です。私もファンの一人として喜ぶべきです。とはいえ、さすがにこのカセット・エディションのジャケット色違いまで揃えることは止めておきました。

 「ジャミング」は以前取り上げたことがあります。ニュー・ワールド・ツアーを見に行って感動したついでに会場で買ったものですから、そのステージの興奮冷めやらぬままに「ジャミング」を聴いていたものです。改めて聴き直してみるとまた新たな感慨があるものです。

 フューによれば、「ドローン」は2014年に録音されており、彼女のその頃の気分を表しているトラックだということです。2014年といえば、東日本大震災と福島の原発事故の3年後、民主党から自民党に政権が代わった翌年にあたります。

 その頃、フューはとても歌う気持ちになれず、その代わりにとてもシンプルなオシレーターを使って音楽を作り始めました。その最初の成果が「ドローン」です。確かにシンプルなオシレーターにガイドされたトラックになっており、不穏な空気が漂います。

 「チアーズ」と「アンコール」の2曲は「ニュー・ワールド」と同時期に録音されたもので、2台の複雑なシンセサイザーを使っており、内容的には2014年から15年にかけての心象風景を描いたという意味で「ドローン」の続編になっているということです。

 この頃の日本の光景は同時代を生きてきた者にとって、それこそ意識下のレベルで共有されていると思います。サウンド自体は私には心地よいのですが、集合的無意識に訴えかけるやり場のない荒涼とした風景には戦慄させられるものがあります。新たな発見でした。

Vertical Jamming / Phew (2020 Disciples)