ジャザノヴァはベルリンを拠点に活動するプロデューサー/DJ集団です。ロックやジャズのバンドとはまるで異なりますけれども、どうしてもそちらの固定観念から抜け切れず、彼らの実体をどのように把握してよいのか戸惑うばかりです。

 この作品はジャザノヴァの2枚目のアルバム「オブ・オール・ザ・シングス」です。前作が2002年の「イン・ビトゥイーン」でしたから6年ぶりのアルバムということになります。ユニット結成は1995年頃といいますから、寡作なアーティストだと思ってしまいます。

 しかし、そんなことはありません。ジャザノヴァは常に音楽を作り続けており、アルバムという形にまとめたものがこの2枚というだけのことです。ただし、リミックス集やら何やらの企画アルバムが結構あって、これが結構ややこしいです。

 本作品はフィーチャリング・ボーカル10名を含めて総勢50名近くのミュージシャンを起用して制作されています。一方で、ジャザノヴァのメンバーのうち、演奏にクレジットされているのはステファン・ライゼリンクとアクセル・ライネマーの二人だけです。面白いです。

 ジャザノヴァの前作はブレイクビーツやアシッド・ジャズといったクラブ・ミュージックのど真ん中をエレクトロニクスで攻めていましたけれども、この作品はそれだけ多くのミュージシャンを起用していることから分かる通り、生楽器を中心にしたアルバムになっています。

 しかも全12曲はすべてゲストによるボーカルが入っており、1960年代から70年代のソウル・ミュージックへのオマージュとなっています。ただし、もちろんそこはジャザノヴァのことですから、しっかりとラテンやジャズなどとクロスオーバーしています。

 彼らはこのアルバムで意図したことを「私たちは自分自身をサンプリングしたくなるような曲を書く」ことだと表現しています。本作品は全編サンプリングで出来ているのですが、サンプリングの元ネタは自分たちが書き下ろした演奏だ、そんなところでしょうか。

 本作品では一部を除いてドラムはプログラムされているのですが、大半は生演奏で、ストリングスやホーンも多用されています。それをサンプリングと称するのはなかなか面白いです。確かにオリジナルから毒気を抜いたようなお洒落な音楽ですから。

 フィーチャーされているボーカリストは、この後、長らくジャザノヴァのライヴでは欠かせなくなるデトロイトのポール・ランドルフ、ラッパーとして活躍するフォンテ、4ヒーローやツー・バンクス・オブ・フォー、4ヒーローなどとも共演しているベンベ・セグェなど多彩です。

 いずれのボーカリストもしっかりとソウルなボーカルを聴かせます。これなどまさにサンプリングしている感覚なのでしょう。その編集感覚がとても現代的だと思います。アルバムとしてのまとまりはあるのですが、切り貼りされているような印象が面白いです。

 胸がつまるような瞬間がいくつも出てくる珠玉の音楽だと思います。本人たちもよほど気に入ったようで、ジャザノヴァはこの後、本格的にライヴ・バンドとしても活躍することになります。そして全世界で何百回もコンサートを行うようになっていきました。

Of All The Things / Jazzanova (2008 Verve)