ジェスロ・タルは英国では大人気バンドですけれども、日本では今一つ知名度が低いです。アルバムの累計売上は6000万枚を超えるという大スターなのに、日本ではどうにもぱっとしません。それだけディープ・ブリティッシュということなのでしょう。

 ジェスロ・タルの結成は1967年のことで、イアン・アンダーソンとバンド・メイトのグレン・コーニックが、ミック・アブラハムとクライヴ・バンカーのコンビに出会ったことでラインナップが揃いました。ほどなくシングル・デビューするとライヴ活動で徐々に人気を獲得していきます。

 ロンドンのマーキー・クラブでの演奏やブルース・フェスへの参加がさらに人気を高め、アイランド・レコードから本作品でデビューすることとなります。まさにあっという間の出来事です。それだけ世間から注目を集めていたということなのでしょう。

 その期待通り、本作品は英国でトップ10に入る大ヒットを記録しました。その年の英国の音楽誌「メロディ・メーカー」の人気投票でビートルズに次ぐ第二位を獲得したのは今でも語り草です。まあこの雑誌の人気投票はこういう意外なことが良く起きますからね。

 バンドの特徴は何といってもアンダーソンのフルートです。ロック・バンドにフルートを導入したのは彼らが初めてだとも言われます。清楚なフルートのイメージとは真逆のむさい髭男アンダーソンが一本足でフルートを吹く姿には目を疑ったものです。

 そのフルートはジャズの天才ローランド・カークの影響を受けたもので、本作品の中でもカークの名曲「カッコーのセレナーデ」をカバーしています。ゆったりしたペースでこの名曲を比較的そのまんまカバーしており、カークへの愛情が窺えます。

 このアルバムではギターのアブラハムの活躍も目立ちます。彼が作った曲「ムーヴ・オン・アローン」ではアブラハムがボーカルもとっており、これはジェスロ・タル史上唯一の事例となりました。彼のブルースへの愛情がほとばしるプレイはこの作品の特徴でもあります。

 アルバムのタイトルは「ディス・ワズ」とされています。これはアブラハムがアルバム完成直後に脱退してしまったことで、ジェスロ・タルからブルースの軛が外れ、新たな方向に向かったことを表しているようです。これはかつてのジェスロ・タルによるアルバムだ、というような。

 邦題はさすがに付けようがなかったのでしょうね、アルバム1曲目の曲名を邦訳した「日曜日の印象」とされました。犬だらけの可愛いはずなのに不気味この上ないジャケットともミスマッチで、ここまでばらばらだと返って意味深長な気がしてきます。

 ブルース・ロックを基調としつつも、ジャズや英国的なトラッド的な要素も散りばめられていて、さすがは大物バンドのデビュー・アルバムだなと感慨深いです。バンカーの火の玉のようなドラム・ソロや、ピンクパンサーから拝借したとされるベースラインなど聴きどころ満載です。

 1968年といえばまだプログレという言葉の用法は確立していませんでしたけれども、ジェスロ・タルはその中にあってプログレとは何ぞやという議論の対象とされました。若さあふれるジェスロ・タル・サウンドはジャンルとは別に十分に進歩的なものでした。

This Was / Jethro Tull (1968 Island)