2003年のボリウッドの大ヒット映画「たとえ明日が来なくても」のサウンドトラックです。この映画はインド国内ばかりではなく海外でも大ヒットしています。ここ日本でも劇場公開されましたし、DVDの日本語版も出ています。

 3時間を超える大作は、ニューヨークを舞台にした恋物語で、主演はご存じスーパースターのシャールク・カーン、ヒロインはプリティー・ジンタ、間に入る助演男優はサイフ・アリ・カーン。三人ともインドでは国民的な人気を誇る大スターです。

 このうちシャールクとプリティーは数年後に同じくニューヨークで制作された「さよならは言わないで」でも大役をこなしていますから、どうしてもこの二作を混同しがちです。それほどこの作品の人気が高かったということでもあるのですが、後者も名作なのが凄いです。

 インド映画らしいべたべたな恋の物語で、意味深なタイトルが後半に生きてきます。シャールクのちゃらさとシリアスさの使い分けがとても印象に残るいい映画でした。悩める女プリティーも素敵でした。展開も早いですし、3時間などあっという間です。

 そしてこの音楽です。2001年の「ディル・チャヘター・ヘー」でブレイクした作曲家トリオ、シャンカール・エヘサーン・ロイのさらなる出世作となりました。サウンドトラックは300万枚近くを売り上げる大ヒットとなり、インドの年間チャートで1位に輝きました。

 特にタイトル曲「たとえ明日が来なくても」はボリウッドを代表するプレイバック・シンガー、ソヌー・ニガムの力強い歌唱もあって、大ヒットし、あっという間にスタンダードになっていきました。時代をこえて愛されるバラードの名曲です。

 三人のうちの一人、ロイ・メンドンサがセリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」と同様のテーマの曲を所望されてその場で作ったという逸話の残る曲です。似ているわけでは決してありませんが、ドラマチックなところは共通しています。

 このタイトル曲の悲劇バージョンもアルバムに収められています。元のバージョンはインド的なポップスなのですが、こちらは声楽、演奏ともにインドの伝統的な手法が使われていて秀逸です。女声ボーカルも加えて、涙を誘います。

 ニューヨークらしいのは「イッツ・ザ・タイム・トゥ・ディスコ」です。この曲を聴くとちょっと時代が分からなくなってしまう懐かしいディスコ調で、これまたちょっぴりインド風のテイストがいいです。インドのディスコはこんな曲がよく流れていたなあと感慨にふけります。

 そして驚くべきはロイ・オービソンのカバー「プリティー・ウーマン」です。メンドンサのギターも映えるバングラ風アレンジが楽しいです。♪プリティー・ウーマン・デコ・デコ・ナ♪のサビがいいです。こんなアレンジならばいくらあっても聴いていられます。

 シャンカル・エヘサーン・ロイの折衷主義的な作風が見事にはまって、とても現代的な作品になっています。とにかく懐が深く、さまざまな曲調を繰り出しつつも、3時間の作品を見終えた時にしっかりとタイトル曲の美メロが耳に残るというサントラ職人の見事な仕事です。

Kal Ho Naa Ho / Shankar Ehsaan Loy (2003 Sony)