ギタリスト、マイケル・シェンカー25歳のデビュー・アルバムです。普通に考えれば、期待の若手のフレッシュなデビューなのですが、マイケルの場合はすでに10年以上のプロとしてのキャリアに加えて酒とドラッグで入退院を繰り返す怒涛の日々を経過しています。

 スコーピオンズやUFOといったハード・ロックの大物バンドを新たなステージに押し上げた天才ギタリスト、マイケルがリハビリ生活を経て、ようやく自身のグループを率いて再始動したアルバムというのがより実情に沿った紹介文句となります。

 邦題は「神(帰ってきたフライング・アロウ)」です。レコード会社の担当者から邦題を考えてほしいと頼まれたのは、BURRN!の編集長、酒井康さんです。「瞬時にして受話器に向かって『神!』と叫んだことを鮮明に思い出す」とは酒井さんの述懐です。

 ヒプノシスが制作したジャケットには裸のマイケルが椅子に縛られており、身体中に電極が配線されており、これまた「神」のイメージに相応しいです。酒井さんが「神!」と叫んだ時にはこのジャケットは見ていなかったそうです。みんなが神だと思っていたんでしょうね。

 マイケルが再始動にあたって集めたメンバーの中には、後にミスター・ビッグで大成功を収めるビリー・シーンやモントローズに在籍していたデニー・カーマッシーなども名を連ねていました。しかし、マイケルが再入院すると忙しい彼らはアメリカに帰ってしまいます。

 一人だけ残ったのは、マイケルがデモ・テープを気に入って声をかけていたボーカリストのゲイリー・バーデンでした。結局、本作品の段階ではマイケルとゲイリーの二人がマイケル・シェンカー・グループ、残りのメンバーはゲストという扱いのようです。

 その残りのメンバーはレインボーのキーボード奏者ドン・エイリー、ドラムにサイモン・フィリップス、ベースにモー・フォスターとなっています。いずれも売れっ子ミュージシャンであるサイモンとモーはジェフ・ベック・グループのツアーに参加していた頃です。

 元ディープ・パープルのロジャー・グローバーをプロデュースに迎えた本作品は「歴史に残る名盤中の名盤!これを聴かずしてハード・ロック/ヘヴィ・メタルのことは語れない程の影響力を持つ1枚」です。熱い語りに当時の熱気が伝わってきます。

 ストレートなハード・ロックの名曲「アームド・アンド・レディ」、キャッチーな湿った「クライ・フォー・ザ・ネーションズ」と立て続けに畳みかけるアルバムは、すかっと爽やかな気持ちの良い典型的なハード・ロック・スタイルです。ギターが踊る踊る。

 インスト曲「ビジョー・プレジュレット」に顕著なクラシック的な端正な曲作りも実にハード・ロックらしい。イギリスではトップ10入りする大ヒットながら米国では100位どまりとなったのは恐らくはそのせいです。私はこういう曲作りは大好きです。

 ゲイリーのボーカルに癖があまりないのもポイントが高く、マイケルのギターがとにかく生きる素敵なアルバムになっています。流れるギターを追っているだけで、アルバムが終わってしまいます。とにかくギターが凄いアルバムです。

The Michael Schenker Group / The Michael Schenker Group (1980 Chrysalis)