「渚にて」の蛭子能収バージョンのようなジャケットが秀逸です。自慢じゃないですが、もうこのジャケットだけでこの作品がポスト・パンクの作品だということが分かります。まあ確かに自慢することじゃないですね。同世代の方なら誰でも分かることでしょう。

 トランスミッターズは1977年にロンドンで結成されました。パンク世代ど真ん中です。彼らはソウルやファンクを中心にリリースしていたエボニー・レコードからシングル2枚とアルバム1枚をリリースしています。この素早さもまたパンク世代ならではです。

 しかし、このトランスミッターズは1980年には空中分解してしまいます。その後、ギターのサム・ドッドソン、ベースのシド・ウェルズ、ドラムのジム・チェイスの三人が、ミッシング・プレジュームド・デスなるバンドと合体し、やがてこのバンドがトランスミッターズを継ぎます。

 ここに合流したのが、ポスト・パンク・バンドとして少しは名の知れたグラクソ・ベイビーズのフロントマン、ロブ・チャップマンでした。オリジナルのトランスミッターズもジョン・ピールのセッションを録音するなど活躍していましたが、チャップマンの加入はやはり大きな飛躍でした。

 それが証拠に日本盤の帯には、「グラクソ・ベイビーズのメンバーが結成した、マキシマム・ジョイと並ぶもう一つのバンド」と紹介されています。しかし、そのバンドが「25年の歳月を経てついにそのヴェールを脱ぐ」と書かれてしまっているのはご愛嬌です。

 実際、このアルバムは2007年の日本での紙ジャケ再発が世界初CD化でした。このラインナップもジョン・ピールのピール・セッションにも出ていますし、当時は知名度もあったはずなのですが、本作品の後にアルバムが続かなかったのが大きいです。

 その一つの理由はメンバー交代の多さでしょう。バンドはこの後もしばらく存続しますがチャップマンもほどなく去りますし、そもそもこのアルバムでもドラムは途中で交代しています。落ち着かないとアルバム・ディールには恵まれません。

 この作品はグラクソ・ベイビーズやザ・ポップ・グループを輩出し、のちにトリップ・ホップを生んだ街ブリストルにあるハートビート・レコードから発表されました。「詩を重視したグラクソ・ベイビーズの初期の音楽性とレゲエからの影響を継承した過激なサウンド」です。

 レゲエというよりもダブといった方が適切でしょう。いかにも当時のブリストルから出たサウンドです。ぶんぶん鳴るうねるベースと、乾いたドラム、フリーキーなサックスとカッティング命のギター、詩の朗読寄りのボーカルと典型的なポスト・パンク仕様です。

 それぞれの楽器がバラバラに鳴っているような風情がアートっぽいです。楽器演奏に熟達しているというわけではないところがいかにもポスト・パンクです。あの時代にしか聴かれないサウンドがとても耳に馴染みます。これはこれでとてもカッコいいです。

 なお、ドッドソンとウェルズは我らがマーク・ペリーのグッド・ミッショナリーズでも時おり演奏していました。この時代の英国の音楽シーンは思わぬつながりがあって大変面白いです。彼らも初期にはヒューマン・リーグをサポートしたことがあるとか。

And We Call That Leisure Time / Transmitters (1981 Heartbeat)
(注:Thatですが、邦題はジスです。)