「ウィングス・グレイテスト・ヒッツ」はポール・マッカートニーのバンド、ウィングスが残した唯一のベスト・アルバムです。1971年からの10年間の活動期間はもとより、解散後はポールの個人名義のベスト盤に吸収されているので、正真正銘これが唯一のベスト盤です。

 ビートルズ解散後のポールの音楽作品は、名義がソロだったり、リンダとの二人名義だったり、ウィングス名義だったりとややこしい上に、ヒットしたシングル曲がアルバムに収録されていなかったりして結構追いかけるのが大変でした。

 そのため、このベスト・アルバムが発表された時には私もほっとしたものです。ほっとしたついでに当時そんなにファンでもなかったはずなのにアルバムを買ってしまいました。ハードルを上げるだけ上げておいてから下げるとお買い得感が増すものです。

 後にオリジナル・アルバムにボートラ収録されたりしますけれども、本作品がアルバム初登場となるシングルは5曲もありました。それも「アナザー・デイ」、「ジュニアズ・ファーム」、「007/死ぬのは奴らだ」、「ハイ・ハイ・ハイ」に「夢の旅人」といういずれも大ヒット曲です。

 「死ぬのは奴らだ」はもちろん同名の007映画の主題歌です。前作はシャーリー・バッシーでしたから、いよいよ007もロックに進出と話題になったものです。ジョージ・マーティンと久しぶりに共演して、ポールもかなり007に寄せています。映画主題歌としては理想的です。

 さらに英国で特大ヒットとなった「夢の旅人」が初めて収録されました。ポールがファームを構えているスコットランドのキンタイア岬の美しさを歌ったバグパイプ入りの曲で、英国では200万枚を超えるビートルズをも凌駕する大ヒットになりました。米国ではさっぱりでしたが。

 収録されている曲は全部で12曲です。アルバム未収録の大ヒット・シングルとしては「愛しのヘレン」がまだあるのですが、そちらは収録されていません。一方、ソロ名義だったはずの「アナザー・デイ」は収録されており、ウィングスとソロの関係がややこしいです。

 しかし、この曲の並びは考え抜かれているようで、オリジナル・アルバムのように聴き通せてしまいます。やはり冒頭には「アナザー・デイ」以外は考えられませんし、A面最後は「バンド・オン・ザ・ラン」、大トリは「夢の旅人」しかない。さすがはポールです。

 大ヒット曲のオンパレードである本作品を久しぶりに聴いて強く感じたのは、「ハイ・ハイ・ハイ」や「ジェット」などのロック・ナンバーもあるものの、ポールの作り出す楽曲は「みんなの歌」のようだということです。マーチング・スタイルがよく似合う音楽。

 まだロックは若者の音楽だった頃です。ブラス・バンドやバグパイプがぴったりとはまっているポールの音楽はどちらかといえばファミリー・エンターテインメントに近い。パンクが英国を席巻した時代にポールはまるで別の土俵で勝負しているかのようです。

 名曲の数々を練りに練った演奏で披露するポールに非の打ちどころはありません。どの曲も生まれ落ちた瞬間からスタンダードと化し、老若男女を問わず受け入れられるというまさに「みんなの歌」状態です。恐るべし、異次元のポール・マッカートニーです。

Wings Greatest / Wings (1978 Parlophone)