ジューダス・プリーストはNWOBHM、すなわちニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタルの代表的なスターだという気がするのですが、彼らのバンド結成は1969年ですから、むしろレッド・ツェッペリンやディープ・パープルに近い世代ともいえます。

 彼らの凄いところは激動の時代にあってヘヴィメタルのスタイルを貫き通していることでしょう。パンクの時代にもぶれずにヘヴィメタを続け、やがて世界的なバンドへと成長しました。ヘヴィメタルの権化、彼らのスタイルこそヘヴィメタルの王道です。

 それゆえにヘヴィメタルを社会の害悪と決めつける米国保守勢力の格好の攻撃の的になってしまいました。彼らの音楽のせいで子どもが自殺したとして裁判沙汰にまでなりました。もちろん無罪なわけですが、ジュダス・プリーストにとっては逆風には違いありません。

 この作品は「20年以上に渡る活動歴の中での第二のデビュー」だと本人たちも認める力作「ペインキラー」です。裁判を起こされていた時期に発表されたアルバムですから、厄落としの意味合いもあったことでしょう。第二のデビューは見事に鮮烈なヘヴィメタ作品です。

 バンドはドラムのデイヴ・ホーランドが脱退して、スコット・トラヴィスに変わりました。スコットはレーサーXなるバンドにいたドラマーで、無名ながら卓越した技術が一部で評判となっていたそうです。彼のバスドラ・テクニックが本作品の一つの肝になっています。

 それから第二のデビューらしくプロデューサーが初期のアルバムのエンジニアをやっていたクリス・サンガライデスに変わりました。伊藤政則氏が久しぶりに引き合わせたことが縁になっているそうで、これまたぶれないヘヴィメタの人、伊藤さんのお手柄です。

 南仏の「壮麗なグラン・シャトーの中にある」スタジオで自家製ワインに浸りながら録音は進んでいきました。「いわゆる商業的ヒット狙いの曲は収められていない、我々は超強力作品『ペインキラー』と『ア・タッチ・オブ・イーヴル』という叙事詩で勝負に出る覚悟をしたのだ」。

 バンドが宣言するだけあって、本作品はポップのかけらもなく、ヘヴィメタの王道であるところの叙事詩的な楽曲が最初から最後まで続いています。メタル・ゴッドと言われるロブ・ハルフォードのシャウトも縦横無尽に活躍します。

 KKダウニングとグレン・ティップトンのギターもいわゆる泣きのギターではなく、スピード感あふれる硬質なギターとなっており、スコットの高速バスドラと絡んで、これまたヘヴィメタの王道。描かれる歌詞の世界も気持ちがいいほどヘヴィメタ的です。

 「カオス状態の世界で、文明が滅び、奈落の底に落ちた文明人の生き残りが助けを求めている。悪が支配する世界を焼き尽くし、文明人を救うために登場した」のが「ペインキラー」です。伊藤さんのライナーまで徹頭徹尾ヘヴィメタ様式です。

 ジュダス・プリーストが作り上げたスタイルですから誰はばかることありません。貫き通したスタイルをまた初心に帰って第二のデビューとした心意気は素晴らしいです。最初から最後まで突っ走る、すかっと爽快なアルバムです。これを聴いて死にたくなる人などいないでしょう。

Painkiller / Judas Priest (1990 Columbia)